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【インドネシアニュース】国営投資機関「ダヤ・アナガタ・ヌサンタラ投資運用庁(ダナンタラ)」の設立法案を可決
それがどうした?よく分からない言葉だらけなんだけど?と思われる方が多いと思いますので、分かりやすく解説したいと思います。
わたしもまだニュースを読み始めたばかりで、よく理解できていない部分も多々ありますから、速報ベースということで
国営投資機関って何?ファンドなの?
一般的にはソブリンファンドと呼ばれていて、政府が余剰資金を運用するための基金のことです。
よくあるのが産油国が潤沢なオイルマネーを基金にして資産運用するタイプで、豊富な貿易黒字をベースに運用するシンガポールのテマセックみたいなタイプもあります。
日本にもあります。他国に比べだいぶ参入が遅れましたが、世界最大級のファンドといわれる年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)です。
運用資産額は約246兆円(2024年3月末現在)どれくらい大きいかというと、オイルマネーでは一番大きいアブダビ投資庁で100兆円くらい、テマセックで25兆円くらいなので、けた違いです。
その存在感の大きさからクジラと呼ばれています。
インドネシアのダナンタラは610億ドルですから、10兆円くらいです。
結構大きな方です。
マレーシアのカザナや、韓国の投資公社(KIC)より大きいです。
ダナンタラの設立目的は?
いろいろニュースを読んでみる限り、インドネシアの国営企業をまとめて所有する基金のようです。
まとめることでガバナンスを強化するとか、税収ではない収入源を確保するとか、インフラ投資促進の器にするとか考えているようです。
でも、インドネシアはもともと国営企業省があり、大臣もいます。国営企業大臣は結構な力を持っていて、一定レベルの国営企業の決議は大臣の承認を必要とするほどです。
ニュースによれば、ダナンタラの管轄は国営企業省ではなく、大統領直下の庁になるようです。
これって屋上屋(屋根の上にもう一つ屋根を作ること、要は無駄な階層を作ること)なんじゃないの?と一瞬思いました。
もともと国営企業については権限を大臣におろしていたのを取り上げるということですね。
なぜならば、国営企業の株主としての権利行使を大臣ではなくダナンタラが行うことになるはずなんです。株主が基金に異動しますから。
じゃあお金ないよね?
610億ドルのドライパウダーがあるわけではないのです。
ドライパウダーというのは投資業界の言葉で、自由に投資できる余剰のキャッシュのことです。あとどれくらいドライパウダーが残っているのかは、投資ファンドの投資余力を図る重要なバロメーターになります。
ダナンタラの資産は国営企業の株式ですから、バランスシートを見るとたぶんこんな感じのスタートになるはずです。
そしてキャッシュがほしければ、増資するか、国営企業の株を売るしかありません。
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いったい何をしようとしているのか?
これは完全にわたしの予想になってしまいます。
間違えている可能性が結構高いので、その場合は修正記事をまた出したいと思います。
1.プラボウォ大統領の権力強化
あからさまな権限強化ではなく、国営企業のガバナンス強化という名目にしています。
しかし、大臣に与えていた権限を取り上げて大統領に移すわけですから、強化する流れということは確かです。
インドネシアの場合、民営化はそれほど進んでいませんので、国営企業の存在感はかなり大きいです。鉄道会社(KAI)、電力会社(PLN)、ガス会社(PGN)、石油会社(プルタミナ)、通信会社(テレコム)、郵便局(POS)、有力銀行(マンディリ銀行、BNI)など。
これらを大統領の直接の支配下に置くということになります。
どのように権限行使の透明性を高めていくかが重要と思います。
基金の投資員会のメンバーで決め、メンバーの任命権は大統領が持っていて、第三者のチェックが働かないとか、容易に想像ができるので、そこはよく見ていきたいと思います。
2.自由に使える資金を確保したい
どんな組織になるのか全く知らないので、完全な想像になります。
これまでは、国営企業大臣が権限行使を行っていましたが、国会の監視は効いていたと思います。
また、国営企業の利益や配当は国庫に一度入り、予算審議の中で使途が決められていたはずです。インドネシアの仕組みがよく分かっていませんので、仮に日本だったらという仮定のもとに書いています。
ところが、基金になってしまうと、国会審議は不要になります。基金の資金運用の一環として使途を決めていきますから、基金の決定プロセス次第になります。
普通に考えれば、基金の決定は投資員会で決められるはずで、運用結果を定期的に大統領に報告することになるでしょう。そのタイミングで国会にも報告だけはするかもしれません。
大統領が好き勝手に使える資金ができるということです。
心配な点
資産は国営企業の株式、収入は国営企業からの配当金ということは、収益性が低いということを意味します。
そもそもなぜ国営企業が必要なのかといえば、民間ではリスクが高すぎてできないような巨大なプロジェクトを行うとか、収益性に問題があるものの国民の便益向上のためにサービスを行う必要があるためです。
鉄道、郵便局、電力、通信といったインフラ事業は、どんな僻地だろうと、利用者が少なすぎて赤字になろうと、やらないわけにはいかないんです。
儲かるのであれば民間がやっておけばいいし参入があるはずです。
そういう意味では、この基金はソブリンファンドとはいえず、単なる国営企業の持ち株会社的な機関に見えます。
もちろんガバナンス面の向上や、グループ全体最適による国営企業全体の収益向上は見込めるかもしれませんが、運用益を上げるようなファンドにはなりえないのではないかと思います。
最後に
わたしはいつも最悪の状態を想像する癖がついていますから、現実はこんなひどくはないかもしれません。
実際のこの法案は国会審議を行い国会を通しているわけなので、審議の過程で透明性の確保やガバナンス強化についてはしっかり検討されているでしょう。
情報収集を続けていきたいと思います。