ベルギーでの「コロナ鬱」対処体験記
日本では今、COVID-19による諸々で刻一刻と変化していく状況に大きな不安を抱えている方が多いかと思います。
日本より早くに感染が急速に拡大しロックダウンにも入ったベルギーに暮らす中で、私もその大きな不安と憂鬱に押しつぶされて何もできない日々がしばらく続きました。ロックダウンから約2週間半が経った今は気持ちも安定し、引きこもりを楽しみつつ、毎日なんとかやれることをやって生活しています。ただ気持ちが安定するまでには時間もかかりましたし、色々試してみてようやく安定し始めた、というのが実際のところです。
ベルギーと日本ではもちろん同じ状況というわけではないので、私のやってきたことがそのまま参考になるかというとそうではないかもしれないのですが、日本より少し早く感染拡大の中に身を置いてきた体験をシェアすることで今不安を抱えている人たちが気持ちを安定させていく過程でのほんの小さなヒントにでもなればと思い、自分がやってきたことを書いてみようと思います。
(※あくまで素人による個人的実践の記録です。全ての人に勧めるというような趣旨のものではありませんのでご了承くださいませ。)
目次
1. ベルギーの状況の変遷
2. "コロナ鬱"になりかけた時の話
3. ”コロナ鬱”に対処するために試してよかったこと
4. あとがき
(少し長くなりますので1,2は飛ばしていただいても結構です)
1. ベルギーの状況の変遷
まずはじめに、ベルギーが今どのような状況か、どのような変遷を辿ってきたかについて書いておきます。詳しく書くと長くなってしまうため、詳細は別の記事に分けておきます。詳細が気になる方はこちらをお読みください。(※2020年4月5日までの情報です)
また参考までに記しておきますが、ベルギーの総人口は約1100万人、東京の人口が約900万人なので東京をそのまま面積5倍にした国、くらいの規模感で考えてもらえたら良いかと思います。
今までの状況の変遷をざっくりまとめると、
2020年3月6日までは感染者のほぼ全てが北イタリアからの帰国者でした。そのため、薬局から消毒用ハンドジェルが消え始めつつもまだどこかみんな楽観的で、基本的には今までと変わらない生活を送っていました。
ですが、そこから20~60件単位で毎日感染者数が増えてゆき、3月11日に初の死亡者(3名)が出ました。
2020年3月12日に新たに85件の症例を確認し、ここでやっと「あ、もうやばい、国内で確実に感染拡大がこれから加速する」と思ったのを覚えています。その夜、学校から急に「明日の正午から学校を閉めます。家に持って帰る必要があるものは明日の午前中に運び出してください」というメールが届きました。2020年3月13日に新規症例160件。一気に前日の約2倍になりました。そして国家安全保障会議により決定された事項について,首相府より声明が発表されました。その結果、学校は閉鎖しオンライン授業へ移行、スポーツ,文化,民俗活動等が規模を問わず中止、労働は可能な限りテレワークへ移行という措置が4月3日まで取られることになりました。
その後も1日あたり170~200件の新規症例が確認され続け、2020年3月17日夜に首相が緊急記者会見を開き、3月18日正午から4月5日までいわゆるロックダウン・外出制限の措置をとると発表がありました。
そしてそのまま1日あたりの新規症例数が243,309,462,558,586,342,526,668と増加してゆき、2020年3月26日に新規症例1298件。初めて1000件を超えました。死亡者数合計は220名。確定症例数合計は6235件でした。
ここから毎日1000件以上感染者数が増えていくことになります。そして2020年3月27日に国家安全保障会議において現在の措置を4月19日まで2週間延長することが決定されました。この決定は5月3日まで更新できるとも発表されました。
2020年3月28日以降新規症例はほぼ毎日1000件以上を超え、多い時は約1800近くにもなりました。ですが外出制限2週間後あたりからやっと感染の指数的増加が緩やかになってきました。4月5日現在の確定症例数合計は19691件。死亡者数合計は1447名です。
非常にざっくり書いたのですがすごいスピード感で学校の閉鎖や外出制限がかけられたことはお分りいただけるかと思います。
2. "コロナ鬱"になりかけた時の話
次に、私がいわゆる"コロナ鬱”のようなものの初期症状のように思えるものが出て来た時のことについて振り返っていきたいと思います。
まずはじめに一番辛かった時期ですが、日本の今(4月5日現在)に当たる時期、ベルギーの3月12日~3月17日辺りです。外出制限がかかるのか、かからないのか、これからどう政府は対応していくのか、何がこれから起こるのか、この状況は大丈夫なのか、この時期、まさに今です。
最初の精神的ショックは急な学校閉鎖によるものでした。それまでにもアジア人差別に対して疑心暗鬼になったりというストレスはありましたが、幸いにも辛い目にあうことは私は運良くなく(地域性もあるのかなと思います)、そこまでこの感染拡大によるストレスを感じることはありませんでした。学校もそのまま続いていくだろうと楽観視し、修了制作の発表に向けて作品制作に励む日々でした。しかしある日突然、学校に行ったら友達から「学校が明日から閉まるらしい」と告げられました。その時は誰もそれがどのくらいの期間続くものなのか、3日間なのか1週間なのか、それとももっと長くなのか、何も分りませんでした。とりあえず家に持って帰れるだけの素材を持ち帰り、自分の部屋で制作を続けられるように準備しました。
その後あれよあれよとものすごいスピードで外出制限などの措置が取られ、ほとんどの留学生が奨学金を受けている機関や派遣元の大学からの要請を受け日本に帰国し、EU外からの入国が制限され、状況が毎日目まぐるしく変わっていきました。
ここで私の不安はピークに達することになります。私は帰国すべきなのか(自費留学のため残るという選択も可能でした)、このままベルギーにいて大丈夫なのか、でも日本に帰ったら親が危ないんじゃないか、外出制限が出されたら生活はどうなるのか、もし重症になったらどうすれば良いのか、学校がこのまま開かずにアトリエにアクセスできなかったら修了制作へ支障が出てしまう、このまま今年卒業することはできるのか、など、先の見えない状況で様々な不安や焦りが次から次へと湧いて来たのを覚えています。
そして気づいたら何もできなくなっていました。
毎日不安に苛まれ、基本的には常にベッドに横たわってぼーっとしていました。ひどい眠気に常に襲われ、時には全てが夢の中の出来事なんじゃないかとも思いました。なんとか力を振り絞って修士論文や制作に取り組もうとしても全然集中できず、ただひたすらネットで情報を収集し、起きている間はずっと液晶画面を見ていました。ありとあらゆるサイトを見たり、SNSでのベルギー在住日本人の投稿を毎分追っていました。それ以外のことをしようとしても集中できず、すぐに不安になって何らかの情報を見ていないと落ち着かなくなっていました。そしてしばらくすると、それすらもできなくなりました。何かを調べてページを開いても、何も頭に入ってこなくなってきました。無気力で、何も考えられずただぼーっとするだけの時間が流れていきました。
と同時に、修了制作や修士論文に取り組みたいのにそれができない焦りでさらに自分を精神的に追い込んでゆき、ふとした瞬間に何も考えてないのに涙が出てくる、というところまで進んでいきました。
実は過去に心療内科に通っていた時期があり、これらの症状は昔も経験したことがありました。そのため自分の状態が非常によくない方向へ向かっているのは既にわかっていたのですが、いつも不調になった時にするようによく寝て食べて日光を浴びれば治るだろうと思っていました。しかしこの状況によるストレスは自分の想定を大きく超えていたようで、突然涙が出て来た時点で、「あ、これはあの時の抑うつと同じところまでいこうとしている」と確信しました。ですがまだ早い段階だったので過去ほど症状はひどくはなく、涙が出たその時に今手を打てばまだ間に合う、と頭がうまく働かない中でもとにかく必死でいろんな対策を練り始めました。
3. ”コロナ鬱”に対処するために試してよかったこと
さて、ようやく対策の話に入ります。まずざっくり試してよかっことを挙げておきます。
①不安を書き出す
②窓掃除をする
③オンラインカウンセリングを受ける
④外に出て少し歩く
⑤友達と通話する
いやこれ?なんかしょぼくない?と思いましたか?
正直私も今書いてみて思いました。ここまで長々と助走とっておいてこれかよって正直思いました。なんかもっとすごい対策でてくるのかと思いますよね。
でもこのくらいがあの時の私にとっては無理のない範囲でよかったんだと思います。試してみた時系列順にひとつずつ詳しく解説していきますね。
①不安を書き出す
これがまず一番初めにしたことでした。
とにかく頭の中が嫌な霧に包まれて、何もクリアに見えないという状況でしたので最初から整理して書こうとしてもうまくはいかず、とにかく今頭の中に浮かんだ言葉を全て書き出してしまおう、とパソコンでひたすらに頭の中の言葉を打ち続けました。頭の中でもやもやと霧になってしまっている不安や憂鬱を書き出すことによって一度その場ではっきりと見れる形にしよう、というのが目的でした。
これは普段もストレスが溜まって来た時によくやるのですが、今回は特にそのもやが半端なく各々の不安の絡み具合も複雑だったので、書き出さないとずっと頭の中に溜めたままになってしまうなと時間をとって書きなぐっていきました。それで結果すぐに不安を解決!というわけにはもちろんいきませんが、不安を頭の中に溜め込んで永遠にその霧に支配され続けるところからはこの書き出しのタイミングでほんの少し脱せたかなというような気がします。
②窓掃除をする
実はこれがかなりやってよかったことだと思っています。かな〜〜〜りやってよかったです窓掃除。
毎日何かに集中しようにも不安が次々に湧いて来て集中できない、という状況の中で、
・何も考えなくて良い
・日光と新鮮な空気を浴びれる
・ちょっとした運動になる
・部屋の中で短時間で終えられる
という窓掃除は負担の少ない気持ちの切り替え法として機能してくれました。また掃除ですから、時間の無駄遣いという気持ちになりにくいのもよかったです。やらなくても良いけどやったら偉い、と自分を褒めてあげられるものなので気分転換をすることによる罪悪感がなく、集中できない時は窓掃除、と段々習慣づけられていきました。ちなみに最近は洗濯(手洗い)もそこに追加していて、1日中家中の窓掃除と洗濯を繰り返し続ける日もあります。がそれでも罪悪感がないので掃除洗濯って良いですね。
③オンラインカウンセリングを受ける
初めてオンラインカウンセリングを利用してみました。
これは、なるべく早くにできる限りの手を打ちたかったというのが大きいです。本当は投薬治療を受けるべきなのか迷ったのですが、過去の経験からまだそこまで症状が進行していない感覚があったこと(※あくまで個人の感覚です)と、あまり外出したくないということがありオンラインカウンセリングをまずは試してみようと登録しました。
私が登録したのは通話によるカウンセリングではなく、1日1回メッセージを送り、カウンセラーの方がそれに対して毎回返信をくれる(週休2日あり)というものです。また、日記を書く機能がありそれをカウンセラーの方がその都度確認しその日記を踏まえてメッセージを送ってくれます。
私の場合は1日の中でどのような時に憂鬱に感じたか、どのような時に少し気分が楽になったかなどを日記に記入していくことで、カウンセラーの方がそれらの分析と対処法の提案を送ってくれています。
私は不安を書き出してもその後自分一人で考えるだけではまた堂々巡りになってしまっていたので、そこに客観的な視点できちんとその資格を持った人から分析を加えてもらったり、フォローをしてもらったり、新しい提案をしてもらえる、というのは不安を大きく削減してくれました。餅は餅屋ですね。
また「何かに取り組んで対策をしている感」も私の場合はこの抑うつが進行してしまったらどうしようという不安を軽くしてくれたように思います。
ちなみに私はこちらのcotreeというオンラインカウンセリングのパートナープログラムというものを利用しています。
https://cotree.jp/lp/partner_program
④外に出て少し歩く
外出制限が出た1週間後に初めて外に出てみました。さぞ殺風景な街になっているだろう、と思ったんですが意外と人は普通にいて(もちろん数はかなり少なくなりましたが)みんな何もなかったかのようにというわけではないけど落ち着いて暮らしている様子が見えました。
「あ、人まだ暮らしてんだわ〜〜〜」と思ったら気持ちが軽くなりました。「あ、大丈夫だわ、人、まだ生きてるわ〜〜」って感じです。何が大丈夫なのかよくわからないですが。
やっぱり家にずっとこもって一人いると閉塞感に苛まれていきますね。今はそれを少しだけビリっと破る感覚で毎日ではないですがたまに外に出て少しだけ歩くようにしています。
ベルギーでは他人と1.5m以上の間隔をあけた上での外での運動は推奨されています。運動とまではいかなくても本当に軽く、5分でもいいのでちょっと外を歩くだけで閉塞感による憂鬱はほんの少し解消されるような気がしています。
⑤友達と通話する
「オンライン飲み会」が盛んになっているのでこれは既に多くの方が日常的にしていることなのかな、と思います。ただ私は最初の方は通話なんてできたもんじゃない、という感じでした。親や友達が電話をしようと言ってくれても気が乗らずに断っていました。なのでこれはある程度安定してきた後の話なのですが、今は友達とたまに通話をしてふざけた話をして笑うことが救いになっています。(今できない人は無理してしなくて良いと思います)
ちょっと安定してきたな、と思った頃に気の置けない友達と通話してみたら普通にふざけたことばっか言って笑えて「あ、私大丈夫になってきてるかもしれない」と思えるようになりました。こういう時に笑えたり一時的でも明るい気持ちになれるのってすごく嬉しくて、このままなんとかやっていけそうだと思えるようになりました。この「大丈夫かもしれない」という経験を増やしていくと日々なんとか乗り越えていく自信につながるなと思っています。これをその友達が読んでいるかはわかりませんがマジでいつもくだらない話ばっかしてくれてサンキューだよ。(もちろん真面目な話も好きだよ全部ラブね)
私にとってはこの「大丈夫だ」を得るのが友達との通話でしたが、人によっては本のページをめくれるようになることかもしれないし、映画を2時間見れるようになることかもしれないですよね。私は異国の地に一人で暮らしていることによる孤独感に対しても対処をしていかないといけないというのもあり友達との通話がとても大きかったですが、人それぞれ色々な方法があるだろうなと思います。
このような感じで
①不安を書きなぐり
②自分にあった気分転換の方法を見つけ
③餅は餅屋 専門家に助けを求め
④閉塞感をたまにビリっと破いてみて
⑤一時的でも明るい気持ちになって大丈夫だと自信をつける
というのが私のこの2,3週間での流れでした。
また、つい先日学校から修了制作の最終考査の日程を延期するという発表もあり、少し先の見通しが立ったこともあり今は以前と比べて非常に気持ちが安定し、修了制作や修論にも取り組めています。まだ集中力は完全には戻ってこないですが、あまり自分にプレッシャーをかけすぎずボチボチやっています。(プレッシャーかけすぎて壊れたら何もできなくなっちゃうので、急がば回れです。)
そしてあとはもうこの状況をただひたすら毎日生き抜くだけだと自然と前向きに捉えられるようになってきました。
あとがき
私の体験がこれを読んでくださっている方の参考になるかは正直わかりません。人それぞれ状況は大きく変わりますし、住んでいる地域ごとにもあまりにも状況が違いすぎて、もしかしたら全く参考にならないかもしれません。
もしくはこの記事が「これらに取り組んで頑張って乗り越えたんだ!」みたいな記事に見えて逆にプレッシャーになってしまったらごめんなさい。それはどうか思わないでください。この異常な状況下ではむしろ「できない」が当たり前だと思います。しかもそんな中で働かないといけなかったり、勉学に励まないといけなかったり、育児など家族の生活を支えないといけなかったりなどなど…もう日々生きていくだけで大変ですよね。
そんな日々を送る中でいわゆる"コロナ鬱"のようなものに対してもし何か対処法を見つけたい、と思った時のほんの小さなヒントにでもなればと思い自分の体験を書きました。私もまだ完全に元どおりになったわけではなく、ストレスによる体調不良はまだ続いていたりもしますが、なんとかこうやってストレスに対処しながら日々生きていこうと思います。
一人でも多くの人が苦しむことがありませんように、一人でも多くの人が助かりますように、一人でも多くの人が悲しむことがありませんように。一刻も早く収束し、穏やかな日々がやってくることを心から願っています。