教材研究覚書『固有種が教えてくれること』(小5国語・光村)
『ざんねんないきもの事典』シリーズ監修の今泉忠明氏の文章です。
日本にはなぜ固有種が数多く暮らしているのか、その疑問を解き明かしながら、それらの固有種を絶滅の危機から守ることの重要性と、それこそが日本に生きる私たちの責務であると訴える内容です。
今泉氏の主張を裏付け、補強するために、全部で7つの資料が登場します。この教材文の中核は、“資料と本文の関連をつかむこと”であり、最終的には“資料と本文を関連させることを自分の文章でもやってみる”ことにあると見ています。ですので、『固有種が教えてくれること』の後には「自然環境を守るために」と題された「書くこと」単元が用意されており、そこで例示された文章にもグラフなどの資料が挿入されています。
ここで、“(グラフや表などの)資料と文章を関連させる”とは何なのか、どうなっていれば関連していると評価できるのかを明らかにしていく必要が生まれます。私たちは「関連させ(て考え)る」「結びつけ(て考え)る」というフレーズを、ものすごく便利がって使ってしまう傾向があります。ということは、これらのフレーズは教育界におけるハイオクガソリンであり、簡単に爆発炎上して単元の全てを台無しにする可能性があります。まあ、児童には何かしらは残るだろうからええんちゃう、という投げっぱなしな姿勢を取ることも可能っちゃあ可能ですが(流石に職業倫理というものがある)。
そういうわけで、グラフと文章が関連している/していない状態を想定していく必要があるわけです。特に、「していない状態」、要は理想の正反対にどんなものが置かれているかを想定しましょう、ということです。
単純に「温室効果ガスを削減しよう」という主張に対して「海洋プラスチックごみの量の推計」という資料を持ち出すことは、一見して整合性がない、つまり資料と文章が関連していない状態であるとみることができます。
ここから導出される方策は、温室効果ガスの主張には温室効果ガスの資料ぶつけんだよ、という至極単純なものになります。こんな単純で、大人ならいちいち立ち止まることをしないようなロジックをわざわざ取り出し、取り上げ、自覚させていくことこそがこの単元の中心部分になるのではないだろうか、とも思います。当たり前すぎて素通りしかねないことを、言語化をサボってしまいそうなことを、重大トピックとして表出することをしていく必要があるわけです。だって素通りしちゃうから。サボっちゃうから。究極、そういう人生になっちゃうから。
じゃあ、とここで反例を出していきます。資料と主張の整合性を生み出すために、文章の方で温室効果ガスと海洋プラごみの相関関係を長々と語って証明すればよいのでは? となります。
でも、そんなことをすると主張がどんどんずれていくわけです。本来なら「温室効果ガスを削減しよう」から始まったはずの文章が、「温室効果ガスと海洋プラごみには強い相関関係があるのだ!」にスライドしていく。つまり、自身の主張を別のレイヤにスライドさせてしまうような資料を持ち出してもしょうがないよね、ということ。資料捏造になってないだけマシなのかもしれませんが、微妙に「陰謀論の作り方」講座みたいになってしまいますし、公教育の場でそんなことを教えるなよとなるんじゃねえかなあとも思いますね。気をつけましょう。
文章自体が目指す、目指そうとする地平線上の一点を定める必要性がここで意識されます。ここを定めないことには、文章が地雷原を危なっかしくフラフラと歩き回った挙句に空中爆散しかねないわけです。
一点の主張=文章の目的地に向けて、どのように進んでいくか。そういうことを学ぶ単元なのだと理解した上で、来月からこの単元に挑んでいくことになります。