旅はみんなで楽しむもの
タイ旅!
#3, ロイヤルラタナコシン②
交差点の信号が青に変わった。
バルルン、バルルン、とオートバイの群れが、道の向こうから勢いよく飛び出してくる。
東南アジアはバイク社会である。
老若男女問わずバイクにまたがり、2人乗り、3人乗りの上に荷物を抱えて、颯爽と道を走り抜けていく。
向かってくるバイクに轢かれないよう、慌てて交差点を渡る。
タイの道路は日本と同じ左側車線。
心の中で親近感を感じながら、道の左側をテクテクと歩く。
だだっ広い道に、だだっ広い歩道。
歩道には大きな樹が生い茂り、木陰にはカラフルなビーチパラソルを立てた、アイスクリーム売りやジュース売りの屋台。
おばちゃんたちが、店番そっちのけでおしゃべりに興じている。
バス停、歩道橋、店先。
至る所にタイの王様、お妃様の肖像画が飾られている。
亜熱帯の日差しを受けてキラキラと輝く、赤と緑とオレンジに彩られた寺の屋根瓦…。
と、いかんいかん!
景色に見とれている場合ではない。
日本の友達や、絵本活動を応援してくれている皆に動画を届けねば。
(今回、タイに旅に出るにあたって、色々な方からカンパを集めていた為、旅の様子をリアルタイムで発表していた)
カバンから小型のカメラを取り出し頭に装着する。
電源を入れ、スマホとカメラをブルートゥースで繋げば準備完了。
「え~…、あ~…、はい。
皆さん、こんにちは~、前田ちゃんで~す。
やって来ました!タイ!
え~っと。あの…。
はい!タイです!」
困った…。
カメラを回してみたものの、一体何を喋ればいいのか分からない。
ユーチューブの人や、アナウンサーの人の喋りを見て、あれぐらい(失礼!)余裕で出来るだろうと思っていた自分が恥ずかしい。
ここはタイ。
誰も日本語分からない。
だったら思い切り喋ればいいのに、微妙に恥ずかしがってボソボソ声なのもみっともない。
タイにやって来て2日目。
ユーチューバーへの道はまだまだ遠い事を実感した瞬間である。
(この時点で、当初の出版の目的からはかなり離れている)
………
しばらく歩いていると、道の端で日に焼けたおっちゃんたちがくつろいでいるのが見えた。
トゥクトゥク乗り(エンジンの付いた小型の三輪タクシー)のおっちゃんである。
私(呑気な外国人ツーリスト)の姿に気付くと、手を上げてハイテンションで歩み寄ってくる。
「トゥクトゥク?トゥクトゥク?」
「トゥクトゥク乗ろーよ!」
「楽しいよ!」
「安いよ安いよ!」
「イラッシャイマーセー!」
「ノー、ノー、ノー!」と反射的に振り払うも、
でも、こうやってトゥクトゥクのおっちゃんたちに絡まれるのも、動画的に面白いかな?と思い直し、カメラのスイッチを入れ、値段交渉に入る。
SNSが発達してからというもの。SNSにアップロードをする事を目的に、ラテを注文したり、パンケーキに生クリームを乗せたりする事を総称して、「フォトジェニック消費」と呼ぶらしい。
タイにやって来て早々、あざとく「フォトジェニックトゥクトゥク」を狙う男。
「100バーツ!」
「いやいや40バーツ!」
「80バーツ!」
「いやいや50バーツ!」
「じゃあ60でどう?」
「まぁ、60バーツ(230円)ならいいか…」
おそらく60バーツだってボラれていると思うが、フォトジェニック上あまり細かい事は気にしない。
トゥクトゥクの後部座席に乗り込み、パンツと靴下を売ってそうな場所に連れて行ってもらう事にする。
バルルルルンとエンジンをかけて、トゥクトゥクは走り出す。
ガックンガックンと悪路に揺られながら、景色は流れていく。
………
かつて旅が、孤独や放浪、といった言葉の代名詞だった時代があったらしい。
バックパックを背負い、安い切符を買い、見知らぬ土地を旅する。
長く伸ばしたヒゲ、カオサンロード、染めの入ったサイケデリックなシャツ。
いつしか旅のスタイルはフォトジェニックに変わり、スマホでエキゾチックな写真や動画を撮り、シェアする時代へ。
旅は一人で楽しむものではなく、今は皆で楽しむもの。
カメラの電源を切った後も、そんな感覚が胸の中にしばらく残った。
→ロイヤルラタナコシン#3へ続く。
【タイ旅!】#4,ロイヤルラタナコシン③はこちら!
【タイ旅!】#2,ロイヤルラタナコシンはこちら!
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タイ旅!
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