鷲田小彌太著「大学教授になる方法」のレビュー
この記事の続きです。
今回はこの分野で古典とも言える鷲田小彌太氏の著作のレビューです。
この人、このテーマで何冊本を書いてるんでしょうね。何冊もあるので、発行年が重要になります。時代によって、大学教員の採用状況も変わりますから。
まず、最初の一冊。
大学の教員採用がどのような基準で行われているかを詳しく説明した本だと思って下さい。「どのようにしたら大学のポストに就けるのか?」のハウツー本としての価値は、そんなに無いです。ただ、アカデミックな視点からすると、面白い。「アメリカの大学で博士を取る」ことが日本で大学のポストに就くには近道なのだが、英語が苦手な人はどうするか。高校からアメリカに留学すればいいと書いてある。学術的にはその通り。でも、それを実践する読者として誰を想定しているんでしょうね。そんなことは考えてないでしょ。そういう意味で、学術的な視点からはかなり面白い本だと感じました。
1991年発行。世間ではバブルが弾けて急速に大学新卒の採用状況が悪化する時代に入りますが、「大学バブル」は2000年頃まで続きました。という時代背景。
ちなみに私は1993年に大学学部卒です。この1993年入社あたりから、大卒新卒採用は氷河期突入です。前年入社と比べて採用状況が一気に変わり始めた、と言われました。
この本、この分野では間違いなく「古典」なんですが、やはり古典は味わい深い。多くの人の目に触れ評価されて、そして生き残っている訳ですから。内容の深さ、完成度が違います。時代背景は違いますが、書いている内容は今に通じます。
この本が出て世間では「大学教授には誰でも簡単になれる」という印象を持たれたようですが、それは中身をきちんと読んでいないからそう評価される。確かに博士号などの資格は大学の教員になるために必要とされていないですが、そのかわりに論文を書いてないといけない、と、しっかり書かれています。さらに「10年は研究に打ち込まなければいけない」的なことも書いてあって、私はこの本を読んで、「簡単に大学の教員になれる」とは全く思えませんでした。むしろ「思ったより厳しいことを書いているな」とまで感じた位です。世間の人は、学術論文を書くのがそんなに簡単なことだと思っているんでしょうか?
この時代と今とで一番大きく変わったのは、定年に関する「常識」です。鷲田氏は「大学教員になるのは普通の大卒より10年遅くなる。その分定年が10年遅い。」とずっと主張しています。民間企業の定年が60歳で、私立大学の定年が70歳だったのですから、この時にはその認識で良かったと思います。
しかし今は、民間企業の定年は65歳位まで延長され、逆に私立大学の定年は65歳まで短縮されています。その点から考えても大学の教員は割に合わない仕事になっています。
そして次に一度はレビューした本。
この記事の最後に取り上げました。
これも初版は1991年。いろんな事例が書かれていますが、さすがに話が古くてあんまり参考にならないかもしれません。
何が古いのか。鷲田氏が言う内容は、基本的に大学院博士後期課程に進学してポストを見つけるのが王道で、それが基本になっています。今はこの時代に比べて社会人大学院が充実していて、会社に籍を置いたままでの博士号取得が「この時代よりは」容易になりました。そういう意味で参考にならないと思います。Kindle Unlimitedの対象なので、気になる人はタダで読めますからサッと読まれるのもいいかも。
続いてこれ。
2001年の発行。最初の2冊から10年が経過しています。
10年で何が変わったのか。民間企業は氷河期で就業事情は相当悪くなりました。
それに対して大学はまだ新増設が続いていた時代。新設大学もまだ多く、短大の4大化は続きそれに伴うポスト増、そして「情報」「国際」「環境」を売り出した学部改組が続いていた時代です。文学部が軒並みこういう学部に改組されました。いかにも社会人教員と親和性がありそうな学部改組でしたね。
大学院側の状況をいえば、1990年頃の好景気時代に大学院に進んで10年無駄にするより就職しよう、という人が増え、大学院博士課程出の人材は少なくなりました。つまりこの頃に大学教員になる若手が少なくなっていた、ということです。
という時代背景を考えたら、社会人から大学への転身がかなり簡単だった、ということになります。この時代に大学教員になった社会人が大学教員としては使えなくて困っている、という話が、この後の鷲田氏の本でも出てきます。
鷲田氏本人は「大学冬の時代」を迎えるにあたって「旧著の焼き直しではない。まったくの新著である。」と書かれているけど、私が読む限り、基本的に言っていることは何も変わっていないと感じました。ただ、アメリカの大学教員事情も書いてあったので、そこは参考になるかもしれません。
長いから一旦ここまでにします。続きはこちら。