バックパッカー

私はみつき。33歳。いわゆるバックパッカーである。大学に行くつもりがリーマンショックから起こった特大不景気に人生を狂わされ、気がついたら社会人になってしまった。社会人になってしばらく経った後意外と金が溜まって気晴らしに行った海外旅行で海外にハマり、その後嫌々働いていた会社も辞め、気がついたらパックパッカーになっていた。親も初めは海外に単身飛びまくる私に文句を言ってはいたが、経済的理由から大学進学を諦めた自分に対して負い目を感じているのか途中から何も言わなくなった。まあ特にお金を借りていうわけではないから自分の人生を歩めということだろう。私の一年のスケジュールは至ってシンプル。半年働いて、半年旅行。旅行中の様子をブログや動画にして投稿していて、それも旅費の足しになる。正直動画にしたところで本当の景色を見た感動は得られないと思いつつも、動画は結構伸びるし、適当でも再生回数は変わらないので記録半分でやっている。私が海外で感動するのは、世界で一つだけの美しい建物とか、世界遺産とかではなくて、現地の人たちの生活の雰囲気や日本とは違う価値観で動いているのを見た時に大きな感動を得る。だから向こうで日本人らしい生活をしないために最低限のバックパックで海外に行き、調子がいい時は向こうの青空市場で服を買う。常備しているのは本当に死なないための栄養食とパスポート。それさえあれば海外旅行は成立する。観光名所にも行きはするが、屋台のおっさんと現地の客の何気ない会話や、その土地ごとの人たちの服装とか、自分の中にある常識、ひいては日本の常識とは違ったものを見られると、世界は広い!と思えるし、もっと違う国に行きたい!と思える。なんでこんなに海外旅行に取り憑かれているか自分でもわからないんだけれども、私は多分普通が本当に嫌いなんだと思う。2020から約2年。コロナウイルスの影響で私は2年まるまる日本にいた。特別やってみたいこともなかったのでコンビニバイトと事務作業をしていたが、ベッドタウンにある私の実家の近くのコンビニには大体同じ人間がやってくる。普通の大学生、普通の会社員に普通の年寄り。ほぼ毎日同じ商品を頼み、同じ支払い方法、同じ態度で店に通う彼らを毎日見ていると頭がおかしくなりそうだった。事務作業も同じ。私と一緒でコロナで職を失い特にやることもないので毎日同じ作業をするだけ。なんだこれは。記録していた海外の思い出を見ては、早くあそこにもどりたいという気持ちが強くなった。
私は基本一人で海外に行く。特に初めての国では一人。これは絶対だ。人と行くのはたのしいけれど、結局はその人との思い出になってしまう。その国の記憶を少しでも濃く残しておきたい私は一人で海外に浸かる。
そんな私もそろそろアラフォーになるが、将来のことは何も考えてはいない。パッサパサの髪に、シワがで始めた肌。基本洗顔料や美容用品が持って行けない海外に長いこといるせいで体にも老化の波が押し寄せてきた。しかしそんなことは関係ない。まだ見ぬ世界を見るため、そして普通から逃げ出すため、私バックパッカーみつきは今日も旅に出る。

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