絶対必要、ボツにする勇気
世に出る作品は、破片の上にある
湯河原にある細川護煕さんの庵に、山のように積み上げられた陶器の破片があります。これは、焼いたけれど「世には出さない」とされた器を割ったものです。
破片からは、どこがどう良くないのか、さっぱりわかりません。僕の感覚としては、粘土を練り、ろくろを回し、窯に入れて焼く。出来上がった作品に多少の欠点があったとしても、またそれも味わいだとも思うのです。
だから、高く積み上がった破片を見て「もったいないなぁ……、なんとかならないのかなぁ」と感じるのは、僕だけではないはずです。
しかし、作家として「世には出せない」という想いがあり、逆にそうした、ボツの上にこそ、人々の前に出せる作品があると考えることもできるかもしれません。
陶作とトリックの創作は違うのかもしれません。しかし、もし僕らが「これくらいは、お客さんに許してもらえるかも……」という甘えがあるのだとしたら、それは子供と大人の世界ほどの差があると非難されても、しかたがないことだと思っています。
↑細川護煕さんは、2005年の特番「スーパーテレビ情報最前線『世界一のマジシャン』」でも、僕について身に余る賛辞をコメントしてくれました。
そのトリックが人を幸せにしているか?
でも、こんな話を紹介したからといって「トリックの創作は、それほど難しいことかぁ……」とは思わないでください。別の角度……、「ボツにした作品が多ければ多いほど、世に出す作品の輝きが増す」とか「ボツにする基準が厳しければ厳しいほど、作品の価値が上がる」と考えてみて下さい。
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