メソッド01 違う山の登山ガイド
いままでいろいろなマジック論を読んできました。もちろん海外の書籍も含んでの話です。
そんなマジック論には、役に立つこと、知らないことがたくさん書かれています。「へぇー。そうなんだぁ」なんて、感心して納得することもあります。
でも、読みながら「あれ?僕が求めていることと、何か違うぞ…!?」と違和感を覚えることがよくあります。言葉にするには難しいのですが「キリマンジャロに登るつもりで登山ガイドを読んでいたら、『高尾山の登り方ガイド』だった……」、そんな期待外れな感覚でしょうか。
なにも「世間に出回る本はレベルが低い」とか「僕はもっと難しいことを探してるんだ」というつもりはありません。
高尾山にしてもキリマンジャロにしても、登り始めるスタートは地上から。スタート地点は、みんな同じです。そして、登山の目的は人それぞれ。「良い/悪い」、「高級/低級」なんてありません。
ただ、「キリマンジャロ登山で、マルトデキストリン(デンプンを酵素分解した栄養剤)や酸素ボンベは何個くらい必要かなぁ……」なんて悩んでるとき、「高尾山の頂上へのロープウェイ乗り場はここ。片道470円です。」というズレはやっぱり気になります。(本としては、そのほうがずっと部数も増え、著者も出版社も義務は果たせるでしょう。もし、家族で気軽に登山を楽しむなら『高尾山ガイド』は、とても役に立つ情報です)。
ずっと昔に、プロマジシャンのマックス・メイビンさんにそんな違和感を話したら「登る人が少ない高い山だからこそ、(情報は少なく)登る価値があるんだよ」ってアドバイスされました。アメリカ人って「そんな直球な例えが上手だなぁ…」と感心しつつ、後に指揮者の小澤征爾さんが「指揮者は、指揮者にしか育てることができない」と断言していて、マックスさんのプロ向けのアドバイスに、とても納得したのを覚えています。
「マジックはお客さんを楽しませること」というフレーズの違和感
世の中、人それぞれ、いろんなマジックを楽しんでいます。たとえば「自分の技術の腕を上げたい」とか、「大きな拍手もらいたい」「コンテストで1位になりたい」など、それぞれが目標を持っています。
プロのマジシャンの僕の目標は「観客に好きになってもらい、また観たい。家族や友人にも見せてあげたい」って感じてもらうこと。僕は、そんなふうにプロの仕事をとらえています。
だから、よく耳にする「マジックはお客さんを楽しませる……」なんてフレーズにであうと、「いや、いやそんなの当たり前でしょ。みんなが知りたいのは、どうやって人々に『すごい好き、死ぬほど好き』、って、ファンになってもらうか、なんだけどなぁ……」と心の中で呟いています。家で一人のときは声に出しちゃうけど。
そんな「マジシャンと観客の心の中の科学変化」は、ペットショップでガラスケースの中の愛らしいイヌやネコに出会ったとき、「うぁ!いくら払ってでも、この仔を連れて帰りたい」っていう、欲求や衝動に少し似ている気がしています。
その質問、じつは偉人の悩みと同じでした
「人の欲求とは」…。この壮大な質問ですが、答えを見つけるのは比較的、簡単でした。なぜなら、歴史の中で数千年も、画家や彫刻家、音楽家が同じ悩みを持っていて、天才的な偉人たちがそれなりの答えを見つけているからです。僕みたいな凡人じゃなくてね。
noteで継続中の人生相談「好き嫌いの境界線」でも少し触れましたが、偉人たちが出した答えの一つが「その作品に触れる(所有する)ことで、人生に意味や価値が生まれるように感じる」こと。
これはアート(芸術)の価値の本質でもあると思っています。
じゃあ、次に知りたいのは、どうやったら、そんな作品……「触れることで、人生に意味や価値が生まれるように感じる」マジックが創れ、そんなマジシャンになれるのかという解決策です。
でも、最初に弁解をしておきますが、そうした作品を創作したり、そんなマジシャンになるプロセスを話すって、カップ麺のように数分でできるモノではないんです。
でも、せめて、この連載では、漫画「ドラゴンボール」で、主人公が「天下一武道会で優勝する」くらいのスピードで説明できるようにがんばります。もし漫画の世代が違うなら、「鉄腕アトムがサーカスに売り飛ばされて、最後は地球を救う」くらいのスピードで話を進めていこうと思っています。
ここまでのまとめ
○マジック論は目的地や目標の高さによって異なる
○楽しませるだけじゃぜんぜん足りない(はず)
○「人々の欲求を生むには…」の答えは、歴史の中で偉人たちが出していた
○その答えのひとつは「そのマジックやマジシャンに触れたことで、自分(観客)の人生に意味や価値が生まれたように感じること」
(つづきます)
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次は、ストーリー02 マジシジャンのゴールって、なんだろう?
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