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ストーリー12 マジックを続けさせてくれた人

僕はお葬式が嫌いです(←好きな人なんて、たぶんいませんが……)。

なかでも、一番嫌いなのは、故人が生きているうちに「お世話になりました」とか「すごい人でした」と本人に直接言えないところ。そして、帰りぎわに、糊のききすぎた(涙の吸わなそうな)白いハンカチ、小さな塩の袋とかを渡されるのも、なんだかなぁ……、と個人的には思っています。小さな袋に入っているのが、クレイジーソルトなら料理につかえるのに……。

だから、僕は白いハンカチじゃなく、トランプのセットを「自分の葬式のお礼」として作り、お世話になった人に手渡しする……。そんなことを5年くらい前に計画しました。直接会いに行って「僕が生きているときに、大変お世話になりました。ありがとうございます」という言葉を添えて渡すのですが、ちょっとエキセントリックな行動なのか、みんな苦笑いします。

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その「生前はありがとうセット」は、50個作りました(↑写真)。でも、僕の葬式に来てくれそうな人はそんなにいなくて、かなり余ってしまったのは、僕が不徳のせいですが……(笑)

こんな、へんな話をしたのも、言いたかったのは、「いろんな人に助けられて、マジックを続けていけた」ということ。いい人に見られたい、インタビュー用のセリフじゃなくてね。

僕の好きな言葉に、ニュートンが友人に宛てた、こんなフレーズがあります。

「我々は巨人の肩に乗って遠くを見る、小人にすぎない」

つまり、先人の努力があるからこそ、新たなモノが発見され、継続され、成り立っています。先人たちの偉業に比べたら、僕らはとても小さな存在。科学技術や文化もそうだし、もちろんマジックもそう。僕が使っているテクニックのほとんどは、マジシャンたちが数百年かけて考案したもの。それだけじゃなく、僕を雇ってくれるクライアントや観客のお陰でもあります。そうなると、当然、僕が生まれる前の時代のマジシャンの雇い主や観客にも恩があるわけです。

だから、マジックに限らず、何かを「自分ひとりで見つけたような顔をしたり、そんな言い方をする人」を僕は大嫌いだし、「独学なんです」なんていう人は信用していない。そんな人たちは、過去の偉人だけでなく、目の前のクライアントや観衆を裏切り、欺いていることに気がついていないのかも。

このストーリーで紹介したチェーホフ、マエストロ、マックスさん、ウィンストンさんを始め、日本でも無数の人(でも、50人以下……笑)に、僕は恩を感じています。(本人の許可を得ていないので)ここでは名前を挙げないことを許してくださいね。

このストーリーの最後に、マジック界の巨匠、ダイ・バーノンさん(プロフェッサー)のことを書こうと思ってます。悩み相談でも少し紹介しましたが、バーノンさんは才能のないマジシャンに会うと「お前はマジシャンをやめろ、今日やめろ!」が口癖だったくらい辛辣な人でした。

今から30年ほど前、そんなバーノンさんが僕のショーに来てくれたことがあります。たぶん、プロフェッサーの信頼を得ているマックスさんが口添えをしてくれたからだと、僕は勝手に想像してるんですが……。

ハリウッドのマジシャンたちは「なんで、あのプロフェッサーが、無名のアジア人マジシャンのショーに行くんだ」とか「きっと、あいつも『おまえは才能がない!』と、プロフェッサーに言われるはず」と、奇妙さと嫉妬が混じった劇場の空気感だったのを覚えています。(いま思い出しても冷や汗が流れます)。

ショーの後、バーノンさんがいつも居るバーにある「バーノン・シート」と呼ばれるソファのところに行き、緊張しながら、ショーに来てくれたお礼とサインをお願いしました。「僕のショーはどうでしたか?」なんて聞く勇気は、もちろんありません(汗)。

すると、バーノンさんはニコニコして、サインだけでなく、僕のマジックへの評価を書き込んでくれました。それは、無名な新人マジシャンにとっては、天にも昇るようなコメントでした。

本当なら、その言葉を家の玄関の扉に張り出してもいいくらい。おそらく、仕事のプロフィールのトップに、大きく使うべきだったのかもしれません。でも、愚かな若者の無謀さ……というか、推薦なしで日本での仕事に挑戦してみたかったし、そんなプロフェッサーのフレーズを利己的に使ってはいけない気がしたんですよね。だから、そのサインは、ずっと本棚にしまっておきました。*

でも、ホントは「他のマジシャンにねたまれて、ナイフで刺されたら痛そうだなぁ…」という小心者な理由もありました。

*2005年のファンミーティング(六本木ヒルズクラブ)で、コッソリと、一度だけバーノンさんのサインを展示しました。

本当は、そのバーノンさんのコメントをここで紹介するべきかもしれません。でも、僕はもう少し長生きしそうな気もするので、家に遊びに来た友人に自慢するだけにして、ここで紹介するのはやっぱりやめておきます。

とにかく「いろんな人のお陰でマジシャンになれて、続けていけた」。それだけは確かです。もちろん、これを読んでくださっている人もそう。

ひとつ付け加えるなら、「謙虚さと誠実さ(そして、自分を信じる無謀さ……笑)は、素晴らしい人に出会えて、チャンスをもらえる」。なんか、おばあちゃんの知恵袋のアドバイスみたいな終わり方で、ごめんなさい(笑)。でも、それは、本当のことなんです……。
(『前田知洋の種明かし、またはメソッド』最終回)

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