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要した時間と成功確率に相関関係はなく、むしろ反比例するかもしれない

日本と各国のスピード感

私はシリコンバレーで最初の起業をしましたが、その後、日本の地方都市から三大都市、あとはシンガポールに拠点を作りました(大阪とシンガポールは別法人)。海外と言っても、アメリカとシンガポールの二か国ですが、特にシンガポールのようなハブ国家にいると、日常的にタイやベトナム、インドネシアなどの周辺国と取引をします。また、ある案件の関係で、中国本土の沿岸部にも頻繁に通っていました。

そんな経験を通じて、様々な国でビジネスを行ってきたのですが、共通して感じるのは「スピード感」の圧倒的な違いです。

シリコンバレーは言うに及ばす、東南アジア各国や中国と比較しても、日本はとにかく遅い。何なら、遅さを競っているかのように遅い。遅いからクオリティがいいと本気で信じてるのかと思うくらいに遅い。

私は、国レベルではともかく、個人レベルでは中国人は好きです。日本人よりも義理や人情を重んじる人が多いし、ビジネスに至っては「ここまでスピーディ且つダイナミックに決断する人が多いと、日本企業は勝てないな」と正直思います。

遅いのは、責任を取りたくないから

この理由を考えると、単純に「保身」のような気がします。要は、誰もリスクを取りたくない。新しいことをやるのに、とりあえず自分の責任は回避したい。前任者がやっていたプロセスを自分も踏襲したい。自分が何かを変えて、トラブルが起きるのが怖い。残念ながら、日本企業のトップにはそんな意識が蔓延してしまっているようです。

大企業のサラリーマン社長ならまだわかります(むしろ株主でもないのに何を恐れてるんだと思いますが、サラリーマンは保身を考えるものです)。しかし、なぜか小規模~中堅クラスのオーナー企業にも、この傾向が見られるのが不思議なところです。

たまに、「これだけ時間をかけてリスク評価しないと、M&Aは失敗に終わる」などと、このスピード感を正当化する意見もありますが、正直説得力はありません。なぜなら、現状M&Aの成功確率(買収後、M&Aが成功だったと答えた買い手企業の割合)は3割程度と言われており、これだけ時間をかけた割に低すぎるのです。

もっとも、これは基準があいまいな質問で、当初の目標に届いてなければ「まだ成功とは言えない」と答えるでしょうから、額面通りに受け止めるのは危険ですが、いずれにしても、時間をかけてもその程度の成功確率なのです。

要した時間と成功確率に相関関係はない(むしろ反比例)

では、もっと時間をかければ成功確率は上がるのでしょうか?そう考えるとわかりやすいですが、恐らく逆ですよね。なぜなら、時流は刻々と変化するし、特にAIが急速に発展している今は、その変化がこれまでに増して急激だからです。それなら、やるべきことには早くドロップインして、変化に対応していくべきです。

日本企業は、むしろ検討時間を圧倒的に短くするべきです。検討している時間に、情勢は変わります。そんなの誰にもわかりません。変わったら、また検討に入り、それを検討している間にまた変わる。そんな笑い話のような状況になることも、十分考えられます。

M&Aの日米スピード差

以前書いた、日本人還暦起業家の曽我さんが、最初の会社をAppleに売却した時、買収決定までに要した期間は3日間だったと聞きます。プレゼンを聞いたジョブスは、紙ナプキンに金額を書いて提示したそうです。

そのスピード感は、日本企業はおろかアメリカ企業でも異例中の異例ですが、しかしアメリカの中小M&Aの場合は、1~2週間程度で決まることは少なくありません。検討に時間をかける方がリスキーなのです

私が担当した小規模案件(日本)で、これまで最短で決まったのは3か月程度です。聞いた範囲では、1か月で成約した例もありますが、このスピードは極めて稀でしょう。

逆に、時間がかかったケースは1年以上のケースもありますが、成約までの期間とM&Aの成功確率は、相関関係なんてないのです。むしろ、早く決まった方がうまく行くような気もします(データはありませんが)。そもそも、これほど社会の潮流が激変している中で、必要以上に調査に時間かけて、何がわかるんだと思います。

事業戦略上、最低限押さえておくポイントが明確でないから、取締役会や株主に言われると右往左往する経営陣が多い(個人の印象です)。責任を避けるために、必要性のよくわからない調査に時間と労力をかけ、(自分のための)リスクヘッジをする。

ある意味、日本企業の伝統芸であり、M&Aに限った話ではないのですが、日本企業は根本的にスピード感を改めるべきタイミングだと思っています。

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