合法メンヘラ女の軌跡4

〈射した光〉


こうした鬱々とした1日を送るなかで唯一の救いとなったのがリハビリである。ある日、いつものように泣き叫んでいると「こんにちは!今日からリハビリを担当します、〇〇です!」と快活な声の女性が私のベッドサイドに現れた。彼女は全く動かなくなった私の手足をストレッチで伸ばしてくれた。彼女は看護師とは違い、私に触れる際は「触りますよ。」等の準備の言葉や痛みを確認する言葉を必ずかけて感情失禁で泣き叫ぶ私の想いもよく傾聴してくれた。彼女は理学療法士。下肢のリハビリの専門家である。そして、絶望の淵にいた私に希望を与えてくれた人だ。
繰り返しとはなるが、当時の私のADLは基本的に会話と食事以外、何もかも自分自身では行えなかった。片麻痺という脳梗塞後遺症はこのように動けない身体をそのまま放置するとますます筋肉がこわばって(拘縮を起こして)ますます動けなくなってしまう。筋肉は収縮と弛緩の絶妙なバランスによって正常を保つからだ。この拘縮を防ぐためにはどんなに惨めでも、気分が乗らなくともリハビリ訓練を行うほかない。また、脳梗塞発症後にリハビリの介入が早ければ早いほど身体機能の回復が望める。このためにこの理学療法士は私のベッドサイドに来てくださったのだ。リハビリを行ってもらえる時間は限られており、ほんの数分の時間だったが心身ともに過酷な入院生活の中に生まれた雄一の癒しの時間となった。当時のリハビリは理学療法士にストレッチを行ってもらうだけではあったが、敵だらけの環境のなかで思いやりをもって私に接してくれる人に出会えたことが私に救いを与えてくれたのである。だが、この数分以外はどうしても地獄であるし、(ストレッチだじゃ回復できないよね…)と妙に冷静な自分との葛藤や、1日も早く退院したい・元に戻りたいという切望で頭がごちゃごちゃとなり、光は射したもののやはり泣き叫び続けていた。

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