おいしく、いとおしく。
「疲れて寝ちゃったみたい」
車の後部座席には、ぐらりと頭をかたむけて眠っている我が子の姿。その横に、汗ばんだ髪をタオルでそっと拭いている妻の姿。
僕はバックミラー越しにチラリと目をやって、その愛おしいふたりの様子にそっと笑みを浮かべた。
「すごくはしゃいでたもんなあ」ついさっきまで、いちご畑を駆けまわって、自分の手のひらよりも大きないちごをもぎ取っていた。
思いっきり口をあけていちごにかぶりつき、ぷっくりと頬を膨らませている姿をみて「リスみたいだね」と笑った。
「宝さがしみたいで、おもしろいねえ!」
摘み取るのが楽しかった我が子は、食べきれないほどのいちごを摘んでいた。柔らかな春の光を浴びたいちごは、宝石のように輝いていた。
「お土産もたくさんあるし、お母さんにもおすそ分けに行きましょう」妻の言葉に、僕は「きっと喜ぶね」とうなずいた。
宝石と笑顔を、これから届けに行こう。僕は新しい目的地を設定した。
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