花火に願いを
「あんまりじろじろ見ないでよ」
彼女はそういって、左手に持ったうちわで胸元をサッと隠した。
あたりは仄暗く、その表情はよく見えないけれど、ほんの少し頬を赤らめているだろうか。
宿泊先のサービスで浴衣をレンタルできると教えてもらった。
「夏だし、せっかくだから着てみたら?」と僕がすすめると、彼女も「そうね。夏だしね」と嬉しそうに頷いた。
いつもよりどこか大人びた彼女の横顔が、僕にはなんだか照れくさい。
どぉーんと大きな音が響いて、夜空には流れ星のかけらのような花火が開いた。
花火の光に照らされて、彼女の白いうなじがなまめかしい。
「あー、もう始まっちゃったみたい」
履きなれない草履で急ぐ彼女の歩調は、いつもとちがってぎこちない。
離れていってしまわないように、僕は彼女の右手をぎゅっとつなぎとめる。
「迷子になるとさみしいからさ」
僕がそういうと、子どもじゃないんだからと笑いながら、彼女もぎゅっと握り返してくれた。
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