あたらしい冒険の始まり
「ほら、迷子になるといけないから」
きみの、その丸く小さな手を引こうと、私は手を差し伸べる。
こんなにたくさんの人がいる場所で、はぐれてしまったら。
たぶんきみは、たくさんの涙をこぼし、その場でうずくまってしまうだろう。
けれど、私の提案にほんの少しだけ、君は薄茶色の眉をひそめる。
「迷子になっちゃうのは、お母さんでしょ?」
きみはめんどくさそうに短い腕を精一杯伸ばした。
「何にも言わないで、すぐにあっちこっち行っちゃうもん。迷子になるの、お母さんだよ」
鼻の穴を大きく膨らませ、ふんっと得意げに胸を張るきみ。
守っているつもりでいたのに。
いつのまにか、守られている。
まだまだ、冒険は始まったばかり。
さあ今日は、どこへ出かけようか。
小さな勇者に、この手を預けて。
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