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山が枯れている

何だろう? どこか、おかしいような……。

そう感じたのは、梅雨が明ける前、7月の終わりごろだった。緑で青々としているはずの雑木林がぽつりぽつりと枯れていた。

昨年大きな台風がきたし、妙に長びく梅雨もある。木が痛んでしまったのかなと、はじめのうちはやり過ごしていた。

しかし。梅雨が明けて、洗濯物を堂々と外に干せるようになると、その違和感は確信へと変わっていった。

山の木が、枯れている。

紅葉して葉が落ちるタイプの木であることには違いない。近所の雑木林はナラ・カシ・クヌギといった気が多い。秋にはドングリがたくさん道に転がっているし、風向きによっては枯れ葉が庭の吹き溜まりにがっさりとたまることもある。

秋に葉が落ちるのはわかる。自然の摂理、というかそれが当たり前だと思っていた。

しかし、8月上旬の、夏真っ盛りに紅葉ともいえないほどに葉が茶色くなっているのである。

一本や二本なら、木が弱って、朽ちてるんだなと納得できたけれど、今回は違う。ぱっと見ただけでも茶色が目立つ。はっきりいって気味が悪かった。

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夫に「山の木、あっちこちで枯れてない?」というと、夫も気になっていたという。

「木が枯れることはあるだろうけど、一気に枯れ過ぎだよね。何か原因があるんだろうけどね……」わたしたち夫婦は、異常気象のせいかな? と首を傾げながらも「なんか、ちょっと怖いね」と言い合った。

山の木が枯れると、土砂崩れが起きる可能性がある。わたしの家は土砂災害警戒区域に隣接している。目の前の道路のあっちとこっちで土砂災害警戒区域は区切られているけれど、そんなものは制作サイドの都合でしかない。

もっとも、土砂崩れだけの問題ではない。大通り沿いに、手入れされずにせり出た木も枯れ始めていた。木の一部が電線に触れている。もし、あの木が倒れたら、電線は切れてしまうだろう。

いったい何が原因なんだろう……?

気になってネットで調べていたら「ナラ枯れ」という言葉がヒットした。

*下記サイト内には昆虫の画像があります。苦手な方は見ないでください。

神奈川新聞の記事には昆虫の写真はないので、一度クリックしてみてください。

サムネイル画像のように、緑の木々の中に、紅葉と呼ぶには残酷な茶色が広がっている。

はじまったのは日本海側の地域が多かったのだが、神奈川県では2017年からこの現象がおきはじめたという。

ナラ枯れが起こる原因はカシノナガキクイムシによるもの。

「ナラ枯れ」は、「ナラ菌」を媒介するカシノナガキクイムシがコナラやミズナラ、マテバシイなどのブナ科の広葉樹に集団で穿入することで発生する樹木の感染症で、持ち込まれた「ナラ菌」が樹体内に拡がることにより、水の通導が阻害され、枯死に至ります。 神奈川県森林委員会webサイトより

似たような木の症状として「マツ枯れ」「ブナ枯れ」というのもある。原因となる昆虫は異なるが、発生の成り立ちは同じようなものだ。

ナラ枯れを引き起こすカシノナガキクイムシが大発生したのか、というとそうでもないらしい。むかしから日本にいる昆虫で、外来昆虫でもない。

どちらかといえば問題は雑木林にあるのではないかと推測されている。

森林が昆虫の繁殖しやすい環境に変わってきたのだという。

コナラなどの雑木林とは、多くが薪や炭といった燃料生産のためひんぱんに伐採を繰り返していた場所です。しかし現在では燃料としての消費が減り、伐採されずに放置された木が老齢、太く大きくなっています。こうした大径木はカシナガの繁殖に好適で多くの個体に穿入されるターゲットとなります。 神奈川県森林委員会webサイトより

 雑木林を定期的に管理し、伐採を行っていればこういった問題は起こりにくい。とはいえ、だ。県や市町村が管理している場合、定期的に山に入ってくれるだろうか。また、個人の持ち物だったとしても、広大な敷地で山の管理を定期的に行い続けることはできるだろうか。

おそらく、どちらも難しいだろう。お金も、時間もかかる。管理不行き届きだと、言うのはかんたんだ。けれど、継続して行えるだけの金銭的な体力がないとやってられないだろう。

ナラ枯れを食い止めるには、今のところ「カシナガを誘引物質で集める」という地道な作業しかない。一定の効果がみられるけれど、なかなか根気の必要な作業だ。

「ナラ枯れを発見したら、県または市町村の森林部局へ報告してください」

と案内されていたので、連絡をすることに決めた。今のところ、わたしにできることは、この方法しかない。

7月の終わりごろに見つけた枯れ木は、葉っぱが落ちていた。はじめに見つけた枯れた木々は、もう青々とした緑に紛れている。

その場所にある違和感を感じることすら、もう難しくなっていた。








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