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パリオリンピック柔道観戦記〜男子60kg、女子48kg

こっちのNoteはもう更新せんめぇ、と思ってたけど、柔道のことを書きたくなったので更新してみる。連続投稿とかやってるし。それも兼ねて。

パリオリンピックの柔道競技初日は女子48kgで角田夏実選手が金メダル、男子60kgで永山竜樹選手が銅メダルということで、おめでとうございます。素晴らしい結果だと思う。永山選手は納得していないかもしれないけど、でも十分に立派な結果。胸を張って欲しい。

で、一応柔道参段で学生時代に全国大会で優勝経験(団体個人)もあり、柔道歴は中学から大学卒業までの10年間やってた僕が、ざっくりと観戦記を書いてみようと思う。少しでも柔道の面白さを感じてもらえたら、と思うのだけどね。

まずは金メダルを取った角田夏実の試合から。

角田夏実選手

組手がすごい

角田選手は巴投げ→寝技(腕拉ぎ十字固め)で初戦、2回戦と快勝し、準々決勝も巴投げで一本勝ち。あの巴投げは見事だった。

でも、一番すごいと思ったのは組手。彼女は左組なので、右利きが多い全体では右組が多くなり、必然的に喧嘩四つになる。多くの場合、喧嘩四つって釣り手をお互いに取って、引き手の探り合いになるケースが多い。重量級なんか特にそうなりがち。

お互いに釣り手を取って引き手を探っている状態

こうなると、膠着状態に陥りやすいし、何よりも技が全然出せなくなる。最悪なのは、この状態で相手に指導が行くようにする試合運び。これはもうクソだね。そんな試合の何が面白いのかと。何が楽しいのかと。

角田選手は、ほとんどの試合で引き手から取りに行ってた。ここがすごい。

右手から取りに行ってる

すごく分かりにくい写真で申し訳ないのだけど、右手の方から取りに行ってるんだよね。もちろん、釣り手から取りに行っているケースもあるのだけど、多くの場合は引き手から取りに行っている。

釣り手と引き手、どっちが大事かって色々と意見があって、宗教論争みたいになることもあるのだけど、僕は圧倒的に引き手が大事だと思ってる。引き手だけを持って相手を投げることは出来るんだけど、釣り手だけで相手を投げることはできない。そういう技はない。昔、『柔道部物語』というマンガで釣り手だけで投げる「釣り手背負い」ってのがあったけど、アレはマンガだからね。現実にはまず無理だから。

なので、引き手を大事にして、先に引き手から取りに行くことで有利になると思ってる。それを出来ていたから、組手ではほぼ負けてなかった。そこが勝利の最大の要因じゃないか、と僕は思っている。

巴投げと寝技しかないのはもったいない

巴投げと寝技だけで勝ち切ったのはすごいし、それだけ巴投げが見事だった。巴投げは本当に入り方が上手い。いろんな入り方してたけど、特に決勝の巴投げは、引き出す投げ方ではなく、相手の下に潜り込む入り方してた。お見事でした。

ただ、全試合通して巴投げと寝技だけだったからなぁ。それを堪えきれる選手が出てきたら、しんどかった。それだけで勝ってたからまあ良かったのだろうけど、準決勝のスウェーデンのBABULFATH選手は、完璧に受け切っていた。巴投げって、ああやって後ろに堪えるのが一番いいんだよね。それをさせないように相手を持ち上げる足とは反対の足でフォローするんだけど。

でも腰を落として堪えられたら、なかなか両足使っても引っ繰り返せない。BABULFATH選手はそこがとても上手かったし、寝技にも付き合わなかった。それだけ研究してた、ってことなのかも知れない。

こうなったときにどうする、という引き出しのなさが課題ではないかな。巴投げを見せ技にして、後ろへ倒す大内刈りとか小外掛けとか小内刈りとか、そういう技をうまく使えたら良かったと思うのだけど。

準決勝は完全な誤審とも言えないが、普通なら負けてた可能性が高い

で、そのBABULFATH選手と戦った準決勝だが、唯一やばかった試合はこれ。あそこは普通の審判なら多分指導を取ってない。あのままの状態であと2分も続いていたら、角田選手に指導が行ってたと思う。そういう意味ではラッキーだったと言えるし、BABULFATH選手はアンラッキーだったと言える。

でも、完全な誤審とも言い切れないんだよね。待てがかかる前に、角田選手の組手を嫌って、BABULFATH選手が組手を切ってる。これを取られたんだと思うんだけど、審判はそのタイミングで止めるべきだったのは間違いない。でも副審やJuryからの指摘があったのであるならば、仕方ない部分はある。だから、100%誤審とも言い切れないと思ってる。

まあ僕だったらあそこで指導は取らないのだけど。その辺は審判の裁量だからなぁ。主審、副審、Juryが合意しているのであれば、まあね。。。って感じ。

これを防ぐんだったら、もうAIを入れるしかないと思うよ。それくらい、まあ全体的に見たら際どいと言えば際どかった。待てがかかる直前の動きだけで判断すると有り得ないのだけど、全体を見たらまあ・・・可能性は微レ存かな、って感じ。

繰り返すけど、僕だったら指導は取ってなかったし、あのままやってたら多分角田選手は体力的に負けてたと思う。かなりしんどそうだったし。

一方で、BABULFATH選手は本当に素晴らしかったと思う。角田選手の対策もほぼ完璧だったし。まだ18歳。48kgで絶対王者になれる可能性を秘めていると思う。今後に期待したいし、次回はロスだっけ?そこの優勝候補筆頭じゃないかな(現時点で)。

なにはともあれおめでとうございます角田選手

審判のせいで多少のエクスキューズがついてしまった形にはなったけど、それでも準決勝以外は完璧な試合運びでした。金メダルに十分値する試合だったと思います。

角田選手、金メダルおめでとうございます。

永山竜樹選手

あれは誤審以外の何物でもない

まず、準々決勝の決着だけど、あれは完全な誤審。誤審という言葉だけで済ませていいレベルの話ではない。主審、副審、Juryともに国際大会レベルで試合を裁けるレベルじゃない。今後は国際大会では絶対に採用しちゃいけないと思う。

それくらい酷い。

ボクシングで言うと、「ゴングが鳴ったあとに数秒間連打されてKOされた」ってレベルだからね。しかも審判が「待て」をかけてるのにその状態だった。ボクシングだったらレフェリーが必ず間に入って止めるのに、待てをかけた本人が傍観しているわけだから。

通常なら、待てがかかっても試合を続けた選手には最低でも指導(昔なら警告レベル)を与えて続行、一万歩譲ってもそのまま続行だよ。あのまま試合を終わらせるとか、絶対に有り得ない。

全日本柔道連盟は、厳正なる抗議を行うべき。BABULFATH選手の指導、シドニーオリンピックにおける篠原信一さんの決勝における誤審とはレベルが違いすぎる。

あと、今見返したら、スペインのGarrigós選手、絞めてるときに指を袖の中に入れてるようにも見える。もしそうだとしたら、これはれっきとした反則。審判は二重に誤審をかましていることになるなぁ。

その後、気持ちは切り替えられたのかどうか分からないけど、敗者復活戦、三位決定戦と勝ち上がって銅メダルの獲得はお見事でした。

誤審がかなったとしても永山選手は厳しかったかも知れない

ただ、永山選手はあのままの状態では金メダルは厳しかったのかも知れない。

技が全然出ていなかった。相手に技をかけさせない上手さはあったものの、自分から技を掛けに行くシーンが本当に少なかった。

敗者復活戦と三位決定戦では先に攻める姿勢が見えていたけど、それまでは緊張もあってか、先に攻めることができていなかった。あの状態ではなかなか厳しかったのではないかと思う。

厳しいことを敢えて言うなら、準々決勝も、もう少し先に攻めるようにしていたら、ペースを握れていただろうし、違う展開もありえた。どうしても受けが先にきてたから、相手のペースになっていたし、寝技になったときも相手有利になりがちだった。結果として絞め技に入られたわけだし。

後の先、というのはあるのはあるのだけど、でもやっぱり基本は先の先。先に持って先に攻める、これが柔道の基本。組手でいいところを取れていなかったところは、やっぱり永山選手はキツかったかな、と。

逆に、三位決定戦の技有を取った内股は、不十分な組手からでも相手を崩して投げ切った。これは実に見事だった。こうやって先々と攻めることが出来れば、十分勝てるんだ、ということを証明した試合だったと思う。

ともあれ、銅メダルでも素晴らしい。おめでとうございます。

永山選手は自分は納得してないと思うけど、でも初出場で銅メダルを獲得した、ってのは素晴らしいこと。敗者復活戦と三位決定戦は素晴らしい試合運びでした。

おめでとうございます。

全柔連は有耶無耶に終わらせてはいけない

全柔連は絶対に抗議を行い、あれは誤審であったことを明らかにする責務があると思う。少なくとも、全柔連はそうであるということをちゃんと喧伝すべきだと思う。

柔道が日本発祥のスポーツである、ということを自認するのであれば、間違っていると思われることはちゃんと正していく、あるべき姿を示していく、そういうことも母国としては求められるのだろうから。

人間が審判をやる以上、誤審はつきもの。それも含めて柔道なのだけど、今回の誤審は「仕方ない」を超えてる。これは教育の問題だよ。

残りの試合もとても楽しみ

永山選手、角田選手ともにちょっとミソがつくような試合があったりしたけど、それでもメダルを獲得されたのは、素晴らしい結果だったと思う。

改めてお二人共、おめでとうございます。
面白い試合をありがとうございました。

まだまだ試合は続く。これからは更に楽しみ。しかも、2時には全部の試合が終わる、というのが初日で判明したので、全試合リアタイできそうなのがとにかく嬉しい。

最後の団体戦もとても楽しみだ。僕は個人戦も好きだったけど、団体戦も大好きだったから。

選手の皆さんには、悔いなく試合を楽しんでもらいたい。

#スポーツ観戦記

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