道のりは長ければ長いほど、人生は豊かになる
夫の故郷、カリブ諸島マルティニーク島に伝わる諺がある。
le chemin est long,la vie est long
直訳:道が長いと、人生は長くなる
夫が子供の頃、おばぁちゃんによく言われた諺。
近道をしたり、簡単な方法でやろうとすると、よく「le chemin est long,lav vie est long」と諭されたらしい。
つい最近、おばぁちゃんの諺を思い出した出来事があった。
それは最近始めた有機農家さんでのバイトでの出来事。有機農業の面白さに気づき、37歳で脱サラした社長は土作りの天才。今年で有機農業23年目になる社長のもとにはいつも来客が絶えない。つい先日は、国の○○省の方が畑を見に来ていた。
しかし、世間一般の「農業」のイメージは、そんなによくはない。
・きつい
・朝が早い
・稼げない
農業をやったことのない人、興味のない人はそんなイメージを持つのではないだろうか。
でも’’好き’’という気持ちがあれば、人はどこまでも頑張れると、社長をみて思う。
そして、農業研修生がひっきりなしに、社長の元に研修にくる。本気で農業をしたい人、とりあえず農業を体験してみたい人、色々な人がいる。研修後に「農家」になる人もいるし、「整体師」になる人もいる。
実は、過去に私も留学を終え日本に帰国した時、3週間ほど「農家」さんにお世話になっていたことがある。なぜあの時、農業研修をしたいと思ったのか?その時の気持ちを思い返してみた。
その時の悶々とした自分の気持ちは「自分と向き合いたかった」ということだった。
フランスから帰国し、今の夫と結婚したい気持ち、自然の中で暮らしたい、という気持ち、都会ではもう働きたくない気持ち。
色々な気持ちが交差して、自分の人生に迷走していた。生きることに直結した何かをすることで、自分を見つめ直したかったのだ。
きっと、社長の元に農業研修生も、自分の生き方をみつめ直すために研修にきているのかもしれない。脱サラして、今は立派に有機農家として独立している社長から勇気をもらう人は多いはず。
昨日来客したAさんは、実家が神主さん。有機野菜や、自分が食べて本当に美味しいものを届けたい、と化学肥料や食品添加物を一切使わない食品を販売している。
そんなAさんも「いやぁ~、人生寄り道は大事っすよ!」と。
最後に、Aさんが社長にこんなことを聞いていた。
「農業って、天候に左右されて大変じゃないっすか?」
社長の答えは、
「150品目くらい作っているから、天候に左右されてもどうってことない。自然相手だから当たり前。全部がダメになるわけじゃないでしょ?むしろ、土や太陽、雨にませていれば、電気代や水道代の請求書がくるわけじゃない。感謝しないといけない。」
どこに意識をむけるのかで、お天気への不満ではなく、むしろ自然に感謝する気持ちがうまれる。
「種をまけば、芽が出てくる。野菜が育って、収穫できた時の喜び。そして、お客さんの喜ぶ顔。すべてが楽しくて仕方がない。僕は120歳まで農業をやっていたい。」
「野菜の声が聞こえる」という社長との会話には、いつも野菜への愛を感じる。
20年以上かけて有機農業に携わり、土と野菜、虫の声を聞いてきた社長、その蓄積された20年分の知識自体が人間国宝級だ。
40歳手前で脱サラ、子供もいて責任、プレッシャーもあり、なかなか軌道にのらず大変な時期をあったに違いない。そんないくつもの困難を乗り越え、コツコツと努力、実験を繰り返し、独自の農法をあみだした。好きなことを一生をかけて追及していく姿を尊敬し、勇気をもらっている。
すぐに成功は手に入らなかったかもしれない。でも、人は20年かけて、本気の情熱をぶつけ、自分の好きな事に打ち込み継続していけば、想像もしなかった世界に辿りつく。
自分の道を切り開いてきた、そんな社長の人生はまさに
le chemin est long,lav vie est long.
道のりは長ければ長いほど、人生は豊かになる
私も「頂上からの景色をみてみたい。」そんなことを思った一日だった。