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うつくしいものに囲まれて生きたい
ジェンダーフリーの考え方が当たり前になり、女の子のランドセルも一番人気はブルーだパープルだという中で、いきなりこのようなことをいうのは前時代的かもしれないが、私はいわゆる「女の子っぽいもの」が大好きな人間である。
色とりどりのバラの花
きらめくジュエリー
上質な革のバッグ
フルーツたっぷりのケーキ
フィット&フレアのワンピース
鮮やかなピンクのリップ
ツヤのある長い髪
ピンヒールのパンプス…
考えるだけでときめきに胸が躍る。
こういう好みが形成されたのは、自身が持って生まれた骨格やパーソナルタイプ的な要因もあるかもしれない。
以前診断してもらったところ、間違いようのない典型的な骨格ウェーブだと言われた。パーソナルタイプはフェミニン&ファッショナブルで、華やかで女性らしいファッションが似合うそうだ。
似合うものが好きなものというのはありがたいと、ほくほくした気持ちで診断を受けた。
いつの間にか、コストパフォーマンスやタイムパフォーマンスという言葉がよく聞かれるようになり、世界はより便利に、より快適になっていった。
ファッションも然り。身体のシルエットにぴたりと合った洋服はいつしかショップから消え、ゆるっとしたビッグシルエットやオーバーサイズに置き換わって久しい。
街ではハイヒールで歩く女性をあまり見なくなった。みんなフラットシューズやスニーカーを履いて、大きな歩幅で颯爽と歩いていく。
より快適でシンプルな方へと、マジョリティが変化していったように感じる。
かくいう私も、トレンドを追ってみようと流行りのスニーカーを履いてみたことがある。なるほど快適でどこまででも歩けそうだ。しかし、買ったばかりのマノロブラニクに足を通すときの高揚感には到底代えられない。
少し引っ掛けたらすぐにひきつれてしまう繊細なサテンに、キラキラと輝く重たいビジュー。長距離を歩くには不向きだろうが、その靴を履くだけで、シンデレラが変身するときのように魔法にかかった気持ちになる。冬の冷たい空気を頬に感じた瞬間のようにぴりっと背筋が伸びる。ほんの10センチ足らずのヒールが私にときめきと自信を与えてくれるのだ。
私たちはパンだけでなく、バラも求めよう。生きることはバラで飾られねばならない。
イギリスのデザイナー、ウィリアム・モリス氏の言葉だそうだ。
ただ生きるだけならパンを食べていればよい。しかし人間らしく生きるために、バラを飾って人生に彩りを添えたい。
私にとってマノロブラニクのパンプスは、まさしく人生を飾るバラである。
日々を過ごすには現代日本の生活は十分に快適だ。空調のきいた家があり、栄養のある食事をとって温かいベッドで眠れる。しかし、私はそれだけでは物足りない。美しいもの、彩りを添えてくれるものに囲まれて毎日を生きていきたい。
たくさん歩くことはできないハイヒールも、何も入らない小さなバッグも、何本もある似たような色のリップも、バレンタインのついでに自分用に衝動買いしたボンボンショコラも、花瓶にさして1週間で枯れてしまうバラの花も。
一見無駄に見えるかもしれないが、どれも私の心を鮮やかに潤してくれるものたちだ。私の人生を華やかにしてくれるものたちだ。
そんなうつくしいものに囲まれて生きることが私の願いで、そんなうつくしいものたちを愛でる想いを、取り留めなくここに記していきたいと思う。