掌編 「毒々しい金魚」
どん、と花火の音がして、ゆっくりと下りてきた緑の火花が落っこちた。お腹の底へ響く音がもう一度、どんと鳴ると、ガラスに入った氷がからんと高い音を立てて、崩れた。透明で、小さな氷山みたいな形をした氷の中に、今度は紫の火が灯って、サイダーみたいにぱちぱち弾けた。
ベランダへ落ちた花火の尻尾は、きらきらと風が泣くような声を出して、燃え尽きた。カーテンレールからぶら下がった、ハンガーには金魚柄の浴衣がかかっている。
これは、君と行きたかった夏祭りだよ。
君が置き去りにした最後の思い出を、私は君に悔やんでほしくて、こんな話をするんだよ。
真っ赤に燃え立つ夕暮れが、陽炎のゆらめきの中で、静かに傾く時、私は世界の終わりを思ったし、君はとびっきりの奇跡を願ったね。
おめでとう、君の祈りは届いたよ。
私は、ぽかんとしたあの子のまぬけな顔をメイクして、女の子らしくない髪をセットして、お揃いの浴衣を着付けて、君の所へ送り届けた。きっと、ぷらぷらと優柔不断に揺れる君の手の隣で、私たちの金魚は優雅に泳いでいるんでしょう?
気を付けて。その金魚は噛み付くし、真っ赤なヒレには毒がある。
恋煩いは人を殺すんだって、覚えていてね。
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