マルチタレント住吉さん
遣唐使進発の地。
大阪にある有名な住吉神社に、そう書かれた碑がありました。
ここは底筒男命(そこつつのおのみこと)、中筒男命(なかつつのおのこ)、表筒男命(うわつつのおのみこと)という航海の守り神を祭神とした神社です。その神様たちに息長足姫命(おきながたらしひめ)(神功皇后のこと)を加えて、住吉大神といいます。
住吉大神と聞けば、『土佐日記』を思い出します。
貫之(作中では女性という設定ですが)を乗せた船が暴風のせいで進めずにいると、舵取がこれは住吉大神の仕業だとして、欲張りな神様が欲しがるものとして鏡を海に投げ入れ、それで暴風はおさまったという話。
そこではなぜか住吉大神は強欲で現金な神様として描かれていますが、とにかく住吉大神は航海の守り神なのです。
奈良時代、遣唐使の派遣の際には必ず住吉大神に無事を祈ったそうです。また、遣唐使船には住吉大神が祀られていたそうです。
この海上安全の守護としての信仰は、江戸時代でも続きます。境内には商人たちが奉納した石灯籠が多くあり、交易の神としても崇めらていました。
また、住吉大神は和歌の神様としても知られます。それを象徴するエピソードが『古今著聞集』に見られます。
徳大寺実定という人物が歌合で住の江にまつわる優れた和歌を歌い、その後、実定が船で海を渡っているときに暴風にあって船が沈みそうになったのだが、彼の和歌に感動した住吉大神が現人神(あらひとがみ)となって彼を助けたという話。
ここでは和歌の神様としての顔を出し、同時に航海の神様としての顔も出している。
さらに農耕の神、弓の神、相撲の神でもあるらしいのですが、まさに「欲張り」な神様とも言えますね。
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松の木がいい味を出してます。
反橋と呼ばれるアーチ状の橋です。
知らなかったのですが、川端康成は「反橋」という短編小説を出しているそうです。
橋を渡ります。
本宮への入り口です。
第一本宮から第四本宮までありました。
本宮が四つあるのは神様が四柱(神様の助数詞は「柱(ちゅう)」)いらっしゃるからです。第一本宮は「底筒男命」、第二本宮は「中筒男命」、第三本宮は「表筒男命」、第四本宮は「神功皇后」が祀られています。
写真は第三本宮、第四本宮です。
第一本宮には人が多くいたのと、ちょうどそのとき本殿特別祈祷という一般の方の昇殿参拝が行なわれていましたので、撮影は遠慮しておきました。
ちなみにどの本宮も正面が海のある西側になっています。
大阪最古の文庫です。
つまり大阪最古の図書館です。
文庫と聞くと、文庫本をイメージしますが、漢字を見ると「文書の倉庫」ですね。
江戸の書物商が書物の成功を祈念して住吉大社に奉納したそうですね。
航海の神様、和歌の神様、交易の神様、弓の神様、相撲の神様に続いて商売繁盛の神様?
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歴史ある住吉大社。
和歌に詠まれてきた住吉大社。
多くの人から崇め奉られてきた住吉大社。
日本の古典の最高傑作『源氏物語』にも住吉大社の名はたびたび登場します。
住吉の神の導きにより、須磨に流謫された光源氏は官途に復帰するという逆転を果たすというストーリー。
住吉大神に対する並々ならぬ信仰の心があらわれていますね。
古典、歴史とは切っても切れない住吉大社。
寺社仏閣を訪れるということは、歴史にアクセスするということ。我々日本人が生きた世界と同じ世界にいることを実感し、歴史の流れを感じることができます。
そして、感じるだけでは物足りないからと、昔の人たちの思想を知ろうとすれば、古典を読む必要があるでしょう。
私は国語教師です。
古典を学ぶ意義について考えないことはないのですが、ここ最近導き出した解答のようなものが今、上に書いたものです。
あらためて書きますと、
今を生きる人が歴史にアクセスすることを可能にするのが古典であり、古典を読むことで昔の人たちの思想を知ることができる。そして心が豊かになる。
といった感じです。
そんなことを頭の中でぼんやりと思いながら、阪堺電車に乗って帰路につきました。
〈参考文献〉
田村由美子『日本文学の原風景』(武蔵野書院、2020)
米澤貴紀『日本の神社解剖』(エクスナレッジ、2015)
住吉大社ホームページ
https://www.sumiyoshitaisha.net