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富士山の近くで明けまして
あけましておめでとうございます。
今年はいい一年になりますように。
さて、私は山梨県にいます。
初詣の場所は、武田神社。
甲斐の国の武将、武田信玄公をお祀りしている神社で、甲斐武田氏3代、信虎公・信玄公・勝頼公が約60年にわたって国政を執った「躑躅が崎館跡」に1919年に創建されたそうです。
おそらく山梨県でいちばん有名な神社で、人がたくさんいました。初詣の名所、鶴岡八幡宮、伊勢神宮ほどではありませんが…
写真は撮っていませんが、幟が立っていて、そこには「人は城、人は石垣、人は堀」「情けは味方、仇は敵なり」と書かれていました。武田信玄の名言ですね。いろんな解釈があるそうですが、端的にいえば「人と人とのつながり」「信頼関係」の大切さを説いたことばですね。「情けは味方、仇は敵なり」は「情けをかけると人は味方になり、恨みを買ってしまうと敵になってしまう」という意味ですね。当たり前といえば当たり前ですが、むしろ名言というのは当たり前なことばかりですよね。M-1でバッテリィズが相田みつをの名言として「トマトにいくら肥料をやってもメロンにはならない」という句を引用していましたが、これも当たり前すぎることです。
でも、当たり前のことであるからこそ、ハッとさせられることがあるんです。
と、いうのも、さきの相田みつをの名言のもとになっているのは「トマトとメロン」という詩の冒頭部分で、後に次のようなことばが続きます。
トマトより
メロンのほうが高級だ
なんて思っているのは
人間だけだね
・・・・(中略)・・・・
トマトもね メロンもね
当事者同士は
比べも競争もしてねんだな
トマトはトマトのいのちを
精いっぱい生きているだけ
メロンはメロンのいのちを
いのちいっぱいに
生きているだけ
トマトはトマトらしく生きて、メロンはメロンらしく生きている。そこに人間がトマトをメロンにしようとしても意味がないという話なのです。
だから、「トマトにいくら肥料をやってもメロンにはならない」というのは当たり前の話であるようで、実は芯を食った話なんです。
これはある種、残酷なことを言われているような気がしないでもないです。なぜなら、ひとは幼いころから君たちには無限の可能性があると聞かされてきたから。だから、「君はトマトだ。メロンにはなれないんだから、おとなしくトマトに安んじろ」と言われたら、「おいおい聞いていた話と違うじゃないか」と言いたくなるだろう。
でも、私はそういう「身の丈で生きる」というのは大事なことだと思うんです。人間みな違う価値観を持っているんだし、残念ながら生まれ持っての「センス」みたいなものもあると思うんです。努力すれば全員大谷翔平になれるかといったら、なれるわけないと思うんですね。だから、なれないものを目指すより、今の自分にできる範囲で自分の理想像に近づくという態度がいちばん幸せなことなのではないのかなと思うんです。
「身の丈で生きる」ことを信条としているせいか、先の信玄公の名言「人は城、人は石垣、人は堀」を「城のような役割、石垣のような役割、堀のような役割、人にはそれぞれ果たす役割が与えられている」と解してしまいました。実際はそういう意味ではないのでしょうが、私的にはその解釈もアリかなと勝手に思っています。
……脱線してしまいましたので、話を戻します。
そう、武田神社に行ってきたんですって。
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橋を渡り、石段をのぼり、鳥居を抜けると目の前に拝殿がありました。
ふと左側に目をやると、こんな張り紙が。
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「武田神社々務所」
踊り字がこんな使われ方されているとは!
踊り字は、同じ漢字を繰り返すことを表す記号です。「時時」を「時々」、「赤裸裸」を「赤裸々」のように。
ですが、「武田神社社務所」は「武田神社」+「社務所」の組み合わせである以上、踊り字は適用できないはず。(「民主主義」が「民主々義」にならないようにね)
なぜだ?
変換しようとしても「武田神社々務所」とはならないはず…!
と、理由を考えているうちに拝殿の前へ。
二礼二拍手一礼
さて、先程の疑問は解決できぬまま、武田神社内にあった榎天神社へ。
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こちらは菅原道真公をお祀りしているそうです。学問成就のために、多くの人が絵馬に願い事を書いていました。高校、専門学校、大学、歯科衛生士などなど合格しますように、と。特に印象に残ったのは、中国語で書かれた香港大学成功!と書かれた絵馬、英語でマサチューセッツ工科大に合格できるように、という絵馬、教え子が志望大学に合格しますように、と先生が書いたであろう絵馬です。当たり前のことですが、たくさんの人がおのおの希望を絵馬にこめ、そんな切実な思いたちをつるしているんだなと実感しました。さっきの話ではないですが、当たり前ではあるが、その当たり前なことに心打たれます。(当たり前であることは、時として日常に溶け込みすぎて顧みられることはないからなんでしょう。)
次にたどり着いた場所は「差出磯大嶽山神社(さしでのいそだいたけさんじんじゃ)」。
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「差出磯」とは、近くの笛吹川の洪水などの災厄を封じる堤防として役割を果たしたそうです。『古今和歌集』にも詠まれている和歌の聖地です。
塩の山 差出の磯に 住む千鳥 君が御代をば 八千代とぞ鳴く
簡単な訳を記しますと、
「差出の磯に宿る千鳥の声が『君の年齢は、八千代(八千年)だ』と鳴いている」
千鳥が「ちよちよ」と鳴くことから、「八千代」が連想されているのですね。
「君が御代」や「八千代」という語から思いだすのは、国歌のもとになった和歌ですね。あの歌も『古今和歌集』に収録されています。
わが君は 千代に八千代に さざれ石の 巌となりて 苔のむすまで
年賀に天皇の長寿を賛美した歌ですね。
先に挙げた「差出の磯に~」の和歌も、同じく長寿や繁栄を言祝ぐ歌なんでしょう。
ところで、この神社に次のような謎の鳥の絵がありました。
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これは「ヨゲンノトリ」というそうで、コロナ禍のときに一度話題になったらしい。全然知らなかったです。
江戸時代末期にコレラ流行を予言したとされる頭をふたつもつ鳥で、山梨の市川村というところの村役人・喜左衛門が記した「暴瀉病流行日記」に登場するそうです。「如何なる烏、去年十二月、加賀国白山ニあらわ出て、申て云、今午年八・九月の比、世の人九分通死ル難有、依テ我等か姿ヲ朝夕共ニ仰、信心者ハかならず其難の(が)るべしと云々(図のような烏が、去年の12月に加賀国(現石川県)に現れて言うことには、来年の8月・9月のころ、世の中の人が9割方死ぬという難が起こる。それについて、我らの姿を朝夕に仰ぎ、信心するものは必ずその難を逃れることができるだろう)」などと書かれているそうです。
コレラが猛威をふるい、多くの人たちの命を奪っていく中、その不安から逃れるためにヨゲンノトリなる存在をつくりあげたのでしょう。いつの時代も、不安を払拭するために何かを信じようとするものなのでしょう。
さて、見晴らしのよい場所にて富士山を眺めました。
いい景色だなあ。
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* * * * *
とりとめのない文章になってしまいましたね。
今年は、飛躍の年にしたいなと思っています。
(誰に向けての言葉かわかりませんが…しいていうならば自分に?)
飛躍といえども、自分は超絶スーパースターみたいな存在になることはできないので、身の丈に合った、それでも自分ができる範囲で変わっていきたいなと思っています。
みなさんにとっても、幸せな一年になりますように。
〈参考資料〉
武田神社|甲府のスポット・体験|甲府観光ナビ - 甲府市観光協会公式サイト
展望の社差出磯大嶽山神社(さしでのいそだいたけさんじんじゃ)|山梨県山梨市万葉の森万力公園北の神社
疫病退散!ヨゲンノトリコーナー:山梨県立博物館 -Yamanashi Prefectural Museum-