『renal summer』 犬の腎臓として生きた7日間の記録。
現実の世界で私以外の何かになって生きるのは不可能な話ですが、ビデオゲームの世界であれば性別や職業・人種に留まらず架空の生き物から惑星まで想像できる範囲で、ありとあらゆるものになって生きることも可能です。僕も沢山のゲームで遊んで鳥になったり魚になったりしてきましたが、犬の腎臓になる体験は今までやったことありませんでした。そもそも犬の腎臓なってみようと思ったことすらない。しかし世間は広いもので、腎臓病を患った犬の腎臓になって、犬の寿命を少し伸ばしてみようというゲームを作った人が現れました。人の想像力は無限大です。そして僕は「ちょっと腎臓やってみようかな」と思ったのでした。人の好奇心も無限大です。
ということで、先日スマホ向けに基本無料で配信された『renal summer』という作品を始めまして、先程ひとまずのエンディングを迎えました。実際の時間とリンクした作品で、プレイ開始から7日間かけて犬と飼い主のおじいさんの生活を見ながら肝臓として働くゲーム。僕は先週の日曜から始めたんですが、非常に濃く、後半は本当に目が離せない久々にゲームに支配された日々を送り、クリアして溢れたこの気持ちを書き残しておこうと思いこれを書いています。終わってみて分かったんですが個人の体験、倫理観を大いに揺さぶる作品で、ここに触れない訳にはいかず、結果ネタバレ避けて書くのが非常に困難な状況でして、がんばってがんばってぼやかそうとは思うんですけど、その点ご理解いただいていただけると幸いです。少しのネタバレも嫌な人は読まないで。
腎臓の役割、プレイヤーの役割
犬の腎臓になる。ということで腎臓って何する臓器?と思いちょっと調べてみると、血液を濾過して老廃物を排出したり、血圧調整したり、血液を作る手助けしたりと大変重要な役割を担っておりました。まあ体に要らない臓器なんて無いですし、どれも大事なものなんですが、このゲームではその腎臓を悪くした犬の腎臓で、放置すると悪いものが体に留まって犬は弱り死んでしまいますので、そうならないよう頑張って腎臓のお仕事を頑張るのがプレイヤーのお仕事。
ゲームとして腎臓の役割をどうこなすか。このゲーム、画面の上半分にいぬとおじいさんの日常が描かれてまして、下半分が腎臓。下画面には横6マス×縦4マスのフィールドが描かれてて体液のような血液のようなブロックが落ちてくるので、それを指でトントンして壊すと、老廃物と栄養素に分かれて流れていき犬の体力が維持されます。放っておくと体力が減りゼロになると悲しい結末が待っていますので、そうならないようトントン、トントンと画面をタップするのがプレイヤーのお仕事です。時折グリーンのブロックが流れてきまして、これをタップすると広告見るかどうか訊かれます。見ると血圧が一時的に上がるという体で、ブロックを指でなぞるだけでブロックがボコボコ壊れる状態になって、減った体力一気に回復することが出来ます。見ないという選択もできますので、見たく無い人は地道にトントントントン頑張りましょう。広告はお布施という形で1回、250円支払えば外すことも可能です。お布施は何回でも可能です。
犬は日に日に弱っていく
犬が逝ってしまわないよう、腎臓の仕事を頑張る僕。僕が頑張れば犬をいつまでも生かすことができる。そんな生易しい作品ではありませんでした。なんと犬の体力の最大値が1日、1日と減っていくのです。どう足掻いても終わりの時は迫ってくるようです。また犬が弱っているからでしょうか、ブロックが固くなって、タップするのにも一苦労。この点、実は対抗手段がありまして、ブロック壊すことで経験値が貯まりまして、これを消費して血圧を上げることでブロックを壊す力が上がります。現実の腎臓病では高血圧は非常に危険な要素のようなんですが、このゲームに関しては悪化する病状に対しての対抗手段として高くてもよし、とされてるんじゃないかと思うんですけど、どうでしょうね。血圧レベル1で挑戦してエンディングが変わったりしたらどうしよう。ちょっとそれを検証する気力と時間が無いもので、ここはゲームだからよしとする方向であることを祈りたい。万が一進行に影響があった場合はこっそり教えてくれるとありがたいです。
体力の最大値が少なくなる分腎臓業務1回の作業時間は短くなるも、この業務を行う回数は増えます。ゆえに、目が離せなくなる。このゲーム、犬が弱るとプッシュ通知がきます。これが心に刺さる。通知見て慌ててアプリを開く日々が始まります。
僕の過ち
普段持ち歩くスマホにDLしていれば都度対応できたのに、僕は家でゲームとお絵描き用に使ってるiPadさんにDLしてしまった。仕事に行ってる間、腎臓業務が行えません。3日目まではなんとかなったものの、4日目、体力ゲージ1メモリ。そして5日目。間に合いませんでした。バッドエンド。そう思った瞬間、不思議なことが起こった。
1日前に戻された。4日目夜からのやり直し。翌朝、出社ギリギリまで腎臓業務をこなし、めちゃくちゃ頑張って仕事片付けて帰宅。体力を回復させて週末を迎え、なんとかエンディングに辿り着くことが出来ました。
感情を揺さぶるシステムの完成度に震える
最初はトントンする作業を単調に感じ、ドットで描かれる犬とおじいさんの仕草を見てほっこりしていましたが、日が進むにつれ、この世界の作り込み具合に震えました。病状の悪化が、腎臓として感じ取れる。俺、悪化してんなあ、と。作業の大変さだけでなく、ビジュアルとしても悪化具合が見える。それと呼応するように上画面の犬の様子も変化していきます。初日はおじいさんの後を追ってあんなにはしゃいでいた犬が……
この様子が、ドット絵で非常に細かく描かれています。現実と同じ時間の流れで日々繰り返すことで、細かな変化が余計に染みる。
そして、それをより深くしているのが歌とSE。アプリを再開すると時折悲しげで、でも暖かくもある、心に響く歌が流れます。そしてその後に残るのは日々の生活の環境音。犬の足音、注がれるコーヒー、カップを食器にぶつける音、虫の声、揺れるロッキングチェア。細かな音の一つ一つが本当に素晴らしくて心震えます。
そしてもうひとつ震えたのが広告。無課金だとたまに、お布施して広告外すと毎回、この世界の新聞記事が出てくるんですが、これが有料広告の合間の、お遊び的なネタではなかった。広告部分も、しっかり世界に絡ませてありました。プッシュ通知に怯え「辛い。逃げたい。」と思い始めたタイミングで「えっ!?これって……」と、この広告の仕掛けに気付き、そこからはもう睡眠時間削って、やらなきゃいけない予定先送りして、犬とおじいさんを見届けるべく頑張ることに。
システム、グラフィック、音楽、この全てがこの世界を表現するためにあります。素晴らしすぎて泣いてしまいます。凄いものを見たなあ。ビデオゲームの表現としての可能性、奥深さに心震えました。こういう体験を知ると、ますますビデオゲームが好きになるなあ。
ひとまずエンディングを迎えて
あれをよしとしていいものかどうか。悩みます。実はどうも、この続きがあるっぽいんですけどね。僕は7日目終えた時点でちょっと思い悩んでしまいまして、そこへは向かってません。やり方分からないしなあ。なんとなく察しはつくけど……
さて、僕が悩んでることですが、僕の価値観では、このゲームでは迎えることが赦されなかったバッドエンドがあるべき姿という気がします。このゲームはフィクションですし、みんなが7日間肝臓として辿り着いた先に、少し希望のある未来があったことは、それはそれとしてよかったのではと思う気持ちもあるんですけど、なんといいますか、おじいさんの思いと、僕がこれまで祖父母や父母の闘病を見て思い至った倫理観というか価値観とぶつかってしまいまして。ここはもう仕方ないですなあ。仕方ない。世の中色んな考えの人がいる。でも、うーん。どうだろう。僕は達観しすぎかなあ。父が末期がんと聞いて迷わずホスピス選択し、心臓の手術勧められるももう十分生きたと拒否する母を「本人がそう言ってるので」とそのまま見守るを選択してる僕とおじいさんの立ち位置は対極すぎたなあ。犬と人一緒にするなと言われそうだけどそうじゃない。大切な家族の終末にどう向き合うかに、犬も人もない気がするので。腎臓やっててそう思ったもので。
こんなこと書いてしまうほどに、心揺さぶられた作品でした。いやあ、大変な作品に出会ってしまった。始める前は肝臓になるの面白そうぐらいだったんですけどね。でも後悔はない。出会えてよかったです。何度も遊ぶ作品ではないけど、心に深く刻まれました。龍が如く7やゴーストオブツシマ抑えて、僕の2020年年間ベスト十分あります。
僕は価値観の違いから少々重たく受け止めてしまいましたが、実際クリアまでなかなかしんどいゲームではありますが、それでもやってみる価値のある、特にビデオゲームの表現の可能性を見ることに楽しみを見出してる人には是非ともやってほしい作品です。そうそう、ひとつ大事な事を。もし『renal summer』やってみようと思った方、最後の24時間ほんと目が離せませんので、最終日を休日に合わせて始めることを強くお勧めします。
以上、犬の腎臓として過ごしてみた感想文でした。
おじいさんと価値観合わないなあと思いつつ、作品は好きすぎるので2回お布施しました。歌配信してくれないかなあ。聴くと泣いちゃいそうだけど。
ではでは( ・ω・)/