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月と陽のあいだに 203

流転の章

岳俊(2)

 かつて城下の料理屋で、オラフ・バンダルに襲われた時の恐怖は、今でも忘れない。さらに官試の会場で起きた放火騒ぎも、オラフの仕業と考えられていた。
 一方、氷海の座礁事故ではオラフの影はなかったが、それならそれで、オラフ以外にも白玲を狙う者がいるということだ。
 顔の見えない敵に囲まれているのが確かならば、せめて自分が原因を作ったオラフの脅威だけは、お腹の子が生まれる前に取り除いてしまいたかった。初めて我が子の胎動を感じた日、白玲はオラフを排除しようと決心した。

 オラフの行方は、皇帝の「目と耳」が追っているが、未だに掴めていない。白玲の出奔から四年もの間、オラフが身を隠しながら白玲の動向を知ることができたのは、助けるものがいたからだ。情報源は、皇帝の「目と耳」に繋がっているに違いない。裏切り者の存在を前提にすれば、さまざまな出来事に説明がつく。そしてその黒幕を揺さぶれば、オラフが動くに違いない。

 どこから絞り込もうかと考えた白玲は、氷海の座礁事故がカギになると思った。
 白玲が演習船に乗り組むことは公にされていなかった。だからあえて知ろうとしなければその情報はつかめなかったはずだ。だが月蛾宮にもカナン皇衙にも、白玲と演習船の詳細を問い合わせたものはなかった。ならば情報の出所は、白玲自身に他ならない。
 氷海視察について、白玲が詳しく知らせた人は限られていた。そこから消去法で絞り込むと、残ったのはただ一人。だが、その人物が白玲を狙う理由がわからない。そして白玲自身が、そのことを信じたくなかった。

 それでも疑いがあるのなら、周到に用意して誘き出してみるべきだ。不発ならそれで良し。もしも動きがあれば、そこで仕留めれば良いのだ。
 白玲は自分自身をおとりにして、顔の見えない敵を殲滅する方法を考えた。

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