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同好の士
歩いて5分ほどのところに、トウカエデの並木道がある。
トウカエデの葉は大人の手のひらほどの大きさで、夏は明るい緑色。秋になると、赤茶色や黄色、オレンジ色に染まって、道ゆく人の目を楽しませてくれる。同じような場所に植えられているのに、色づくタイミングや落葉は、木によって微妙に違うのが面白い。
去年の秋は、この葉が色づくのが遅かった。夏の終わりに、嵐で一度葉が落ちたせいだろうか。年を越してもなお、赤い葉が風に揺れていた。
元日、近所の神社へ初詣に出かけた帰りのこと。
いつものように、トウカエデの坂道へ向かった。歩道の端には、吹き寄せられた落ち葉が溜まり、その上にまた新しい落ち葉が重なっている。
その落ち葉だまりの上を、私は選んで歩く。
カサッ、カサッと、乾いた音がする。薄く重なったミルフィーユにフォークを入れたような音。楽しくて、足を少し高めに上げて、わざと音を立てるように歩く。
すぐ隣を追い越していく子どもですら、そんな子どもじみたことはしないのに。
ふと目を上げると、正面から、同じように落ち葉だまりを歩いてくる人を見つけた。
その人は坂の上から。私は、坂の下から。
同じような歩き方で、その人も落ち葉踏みを楽しんでいることがわかる。銀色の髪をキリッと束ねた老婦人だ。
ちょっと、嬉しくなった。
私は少しだけ道の真ん中に寄って、すれ違った。すれ違いざま目が合って、私たちは少しだけ微笑んだ。
「あの……」
背中から声をかけられた。
「川越さん?」
マスクをしていたから、人違いされたようだ。「いいえ」と答えると、何度も謝られる。もう一度「いいえ」と笑うと、老婦人も笑って帰っていった。
もしかしたら「川越さん」も、落ち葉だまりを選んで歩く人なのかもしれない。
私の密かな楽しみは、実は意外に同好の士がいるのかも。
あれからトウカエデは剪定されて、今は灰色の枝を北風に晒している。
落ち葉だまりは、すっかり片付けられてしまった。
風は冷たくても、落ち葉だまりの踏み心地だけでほっこりできる私は、やっぱり安上がりな女なのだろう。
残り葉に白い半月年初め