夜からの手紙 ~月と陽のあいだに 外伝~
ハクシン(4)
母に懐く私を見て、乳母は私を失うと恐れたのかもしれません。外でたくさん遊べるように「体を丈夫にする薬」を私に飲ませるようになりました。
私は幼過ぎて、その薬が本当は何だったのかわかりませんでした。
初めのうちは何の影響もなく、背も伸びて普通の子どもと同じように健康でしたが、一年二年と経つうちに風邪をひきやすくなり、背も伸びなくなりました。それが薬のせいだったと知ったのは、ずっと後のことです。
その薬は、暗紫山脈に生えるシンジュソウという薬草から作られたもので、病や疲労による虚弱体質を改善する効果がありました。けれども健康な人に与えると、内臓に必要以上の負担がかかり、体を害してしまう厄介な薬でした。
そんなものを育ち盛りの子どもに与えれば、発育を妨げてまともな体にさえなりません。そうして乳母は私を囲い込んで、自分のものとして手元に置こうとしたのでしょう。それはもはや母の愛でもなんでもなくて、ただの歪んだ感情、己の保身のために我が子を犠牲にする行為でした。乳母もまた、弱いものを踏みにじるという点で、父によく似ていたのです。
やがて私は杖なしでは歩くことさえ難しくなり、外遊びはもちろん、同じくらいの年頃の子とも一緒に遊べなくなりました。そして有り余る時間を、読書に費やしてきたのです。
兄のことも話しておきましょう。
兄は幼い頃からとても優しい人でした。動物や植物を愛する兄は、母と同じように私の感情の欠落に気づいていました。
例えば一緒に遊んでいるとき、野ウサギを見つけて驚いている私に言いました。
「ふわふわでさわってみたくなるだろう? それはお前が、この子をかわいいと思っているからだよ。小さくて守ってあげたいと思うなら、それは愛しいという気持ちだよ」
こんなふうに、一つ一つの心の揺らぎに名前をつけて、私に感情を教えてくれようとしました。もっと長く兄と一緒にいられたら、私ももう少し普通の子どもになっていたかもしれません。
そんな兄は、父以上に皇位に向かない人です。今回の事件で父が廃嫡されれば、内心ほっとするに違いありません。父の次の世代のたった一人の皇子のくせに、帝王学を学ぶどころか、普段は月蛾宮にすらいないのだから。
兄は今でも、私が心を許せるわずかな人の一人です。
私のことでは、たくさん迷惑をかけたけれど、それでも「仕方のないやつ」と笑って許してくれると思います。
ねえ、白玲。
兄は今回の事件には、全く無関係です。だから兄を責めるのはやめてください。私が言えることではないけれど、どうかこれだけはお願いします。