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人には然るべき時というものがあって、 その然るべき時に然るべきことをしなければならない、 ということを知った日から、 それは私の座右の何とかになった。

もしかしたら私の中には誰かがいるのかもしれない、 と漠然と思った。
それは違和感のような 親近感のような そんな感じのものだった。

虹や月や本の中、そういった日常のあらゆる詳細に啓示のかけらのようなものが潜んでいた。

私はあきらめてその啓示を受け取った。
押し流されるように、あらがう余地など少しもないように。
そして私は思い至った。
この体は私のように思えて、実際はただの容器であったのだと。
今や啓示は手の中にあった。
わかっている、わかっている、と私は繰り返した。

私は図書館にいた。
蛍の光が降り注いでいた。
決定的な啓示を、私は受け取った。

私は主体の世界から、客体の世界へとうつらなければならなかった。
それは、スライド制の席替えのように、あるいは椅子取りゲームの最後の1脚のように、主役だと思っていたお菓子が本当はおまけであったことがアンケート調査によって明らかになったように。

オリンピックで1番になったら「金」であるとだれかが決めて、今では誰もその「1位は金」システムに疑問を持たなくなった。
なぜだろう。
「1位は金でもいいし、金じゃなくてもいい。プラチナでも、黒曜石でもいい」

「もう主体の世界にはいられない」と遠くの声は言った。
わかっている、わかっている、と私は繰り返した。

これ以上ないほど丸い月が煌々と輝いていた。
まるですべてを祝福しているようだった。
100%の満月にすべての生き物は引き寄せられていた。

「大丈夫だろうか」と私は言った。
「大丈夫」と遠い声は言った。
私は「大丈夫」と繰り返した。

そして観念したようにスーツケースを取り出し、静かに客体の世界への荷造りをはじめる。

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