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科学的根拠の活用と臨床実践:EBMにおける真の価値とは

初めまして。
私は、理学療法士として整形外科で勤めており、フィットネスジムを経営している仲地勇次と申します。

これから投稿していく記事は、臨床やピラティスなどに活かせるヒントや考え方を投稿していきます。
ぜひ、フォローをご確認をよろしくお願いします。

略歴は簡単に記載しておきます。


仲地勇次
資格:理学療法士(MS)/ ピラティス / ヨガ / アロマインストラクター
略歴:回復期→急性期→整形外科クリニック→フィットネスジム開業
  脳神経疾患、内部疾患、整形外科疾患、スポーツなど様々なリハビリを経験し、女性のためのフィットネスジムを開業。大学院では“バランス”について脳科学の視点から研究をしていました。



はじめに

治療において良い結果を出すためには、科学的根拠(Evidence-Based Medicine: EBM)をもとに進めることが重要だと、多くの医療従事者が認識しています。

確かにEBMは、臨床における判断を支える強力なツールです。

しかし、科学的根拠を盲目的に信頼するだけでは、患者一人ひとりにとって本当に最適な結果を得ることはできません。

EBMの本質的な目的は、科学的証拠を取り入れることで、医療の質を向上させることにあります。

しかし、その「科学的根拠」にはしばしば曖昧な点や制限が存在します。この曖昧さを理解し、治療においてどのように活用するかを熟慮することが求められるのです。


科学的根拠の限界を理解する(例)

例えば、「牛乳を1日1リットル飲むことで、1年後に身長が0.5cm伸びた」という研究結果を想定してみましょう。このデータは一見すると、牛乳が身長を伸ばすために有益であると解釈されるかもしれません。しかし、この結果を注意深く吟味すると、多くの問題が浮かび上がります。

1. 効果の大きさの問題
身長が0.5cm伸びたという効果は、統計的には「有意」と判断されるかもしれませんが、臨床的に「意味のある差」といえるかは疑問です。たとえ有意差が出たとしても、患者や治療対象者にとって実際に価値があるかどうかは、別問題です。

2. 健康へのリスクの未知性
牛乳を1日1リットル摂取することで、他の健康面にどのような影響があるかについては、明確ではありません。例えば、乳糖不耐症やアレルギーのある患者ではむしろ健康被害を引き起こす可能性があります。

3. 対象集団の偏り
その研究が欧米人を対象に行われた場合、同じ結果がアジア人やその他の集団にも当てはまるとは限りません。個人差や文化的背景を考慮しないデータの適用は、誤った判断につながる可能性があります。

これらは、ほんの一部の疑問になりますが、このように、「科学的根拠」として提示されるデータには限界があるため、単に結果を鵜呑みにするのではなく、背景や条件を深く理解し、内容を精査する必要があります。


科学と理論の違いを理解する

科学とは、事実を証明するための手法であり、観察や実験を通じて得られる知見です。一方で、理論は科学をもとに構築される体系的な仮説や説明の枠組みを指します。科学的データはあくまで「事実」であり、それをどのように解釈し、臨床に適用するかは「理論」として体系化されます。

医療現場においては、科学的根拠を単にそのまま適用するのではなく、個々の患者にとっての最適解を導き出すために理論的な考察を行うことが重要です。科学的データを土台としながらも、治療計画の立案や患者へのアプローチには柔軟性を持つべきです。


仮説、検証、評価のサイクル

私たちは科学を否定するのではなく、その限界を理解した上で活用することが求められます。科学は「万人に適用可能な最適解」を提示することはできますが、「個人にとっての最適解」を直接示すものではありません。そのため、臨床現場では以下のようなプロセスが重要です。

1. 仮説の立案
患者の症状や背景をもとに、科学的根拠を活用して治療方針を仮定する。

2. 検証
立てた仮説に基づき治療を実施し、その結果を観察する。

3. 評価と改善
得られた結果を科学的根拠と照らし合わせながら評価し、必要に応じて治療方針を見直す。

このサイクルを繰り返すことで、患者一人ひとりに適した治療が可能になります。


まとめ

科学的根拠を尊重することは重要ですが、その内容を批判的に吟味し、適切に活用することが臨床実践では欠かせません。EBMは、治療の土台を支えるものであり、単なる「答え」ではありません。科学を正しく理解し、理論的にアプローチする姿勢が、医療者としての質を高める鍵となります。

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