第18話 カオス
将野総理は続投になったが、民政党総裁としての任期はもうそれほど残ってはいない。与党内での将野降ろしが活発ではないのはそのためだった。
首班指名が終わったあとの所信表明演説。
「将来的な解体を視野に、治安維持軍の在り方を見直して参ります」
突如、将野総理は演説原稿にない一言を放った。
まったくのスタンドプレイ、将野の独断で、党幹部をはじめ政権内部から批判の声が相次いだ。総理直轄とはあくまでも名目上でしかない。この一言は影の黒幕の逆鱗に触れ、起死回生を狙った将野だったがますます苦境に追い込まれることになる。
世論も歓迎ムードになり内閣支持率も上向きになりはじめるが、将野総理は突如健康上の理由として党総裁職を2ヶ月の任期を残し辞職。それはそのまま総理としての退陣も意味する。
事実上の更迭。国家の最高権力者を更迭させるほどの力を持つ黒幕とはなにものなんだ?内川はそう思った。
2ヶ月の間代理を務めた伊藤官房長官がそのまま無投票で総裁職に就き新たな総理大臣となると、やんわりと将野の治安維持軍解体路線は否定された。
「法的な後ろ盾として憲法改正論議が宣言される。メディアはその危険性を報じるどころか大歓迎で野党、世論は猛反発。社会の混乱はますます大きくなるの」
と、アサミはいう。
「憲法改正論議は押し切られなかったけど、軍需産業は推進されていった。得意先を失うことになるから、アメリカの反発が凄くなって結局・・・」
「現状は変わらないってわけか」
内川の一言にケイ、アサミは頷いた。
出版社側から謝罪広告を出すということで前島議員の「政治と金」疑惑に対する出版社への訴訟は和解となり、とりあえずは決着をみた。
依然ヤツら新自由連合は鳴りをひそめたまま。
ヤツら、一体なにを企んでいる・・・
影でなにかが動いている。そんな予感を内川は感じていた。
将野退陣後、政権与党である民政党は分裂し改革新党という政党が誕生していた。この新党と民政党は連立を組むことで衆院の過半数を維持し、国務大臣ポストも主要ポストを含む全閣僚の3割を分け与えられた。
これについて政治アナリストは、元は同じ党ですからね。第二民政党というか、と冷ややかだった。
改革新党の多くは治安維持軍肯定派たちだ。警察庁警備局に属していた治安維持軍はこの頃になると、公安から離れ新たに創設された国家安全保障局の管轄となった。
それは、政権内での改革新党の影響力によるものだが、局長官は総理大臣が担うことになっているので実質的にはなにも変わらない。ただ、正式に国の予算が付く。
諸外国からは軍国主義へと傾くことに懸念する声が出はじめている。歴史は繰り返すのか。
過去からこの国はなにも学ばないのだろうか。
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