いまだ触れえぬあなたの影と(ft.『Who You Are』)【Sandwiches #63】
今日も暑うござんしたね。ほぼ外出することなく部屋にこもりっきりの日やったけれども、とにかく蒸し蒸し、汗がとまらぬので「窓用エアコン」の禁を解いてしまった。約一年ぶりの駆動とあっては、ごううん、がたんがたん、やたらにやかましく、マイクでレコーディングした声にもその騒音がばっちり入り込んでくるもんやから困りものです。かといって冷房設備をとめればあっという間にびっしょり汗みずく、これだから夏の制作はやあねえ。
そんな愚痴はさておいて「楽曲紹介」シリーズ、本日でようやく一区切りとなります。2018年リリースの2ndアルバム『KINŌ』から、ラスト・トラック「Who You Are ft. Misa Yoneyama」を聴いていただきましょう。
こちらのミュージックビデオを手がけてくださったのは岩永祐一さん。映画監督として多くの短・中編映画を制作しておられる方で、この「Who You Are」のビデオもまるで映画みたいな仕上がり……と、やあ、ご存知でしたか、実はこれが「映画みたい」ではなく、実際に映画のカットを再構成したものなのです。ほぼすべてのシーンが岩永さんのご自身の脚本・監督による映画作品「BOY'S SURFACE」から引用されている。
一般公開されていないため大きく告知する機会がなかったけれど、同作の主題歌として「Who You Are」を岩永さんが選んでくださり(実際にエンディングで流れるのですよ、いつかみなさんにもお見せしたい)、そこからミュージックビデオの制作へと至ったのでした。その後も「blank form」「Poodles」の企画や、「Kamakura」の撮影・編集など、さまざまなタイミングでmaco maretsの映像作品に携わっていただくことになるのですが、最初の出会いがこの「Who You Are」やった。
映画作品を再編集したものなだけあって、印象的な情景がつぎつぎとあらわれては消え、あらわれては消え、観ていると「いったいどんな物語なんだろう?」と気になりますよね。もし叶うならばぜひ「BOY'S SURFACE」も観ていただきたいが、あえてミュージックビデオで提示される映像だけをもとに物語を想像してみるのも一興です。ぜひ繰り返し観て、推理してみてくださいね。
話変わって、客演アーティストについても触れておきたい。ここであらためて明かせば、「Who You Are ft. Misa Yoneyama」はmaco marets名義の作品としてはじめて(そして現時点では唯一)、ゲストにシンガーを迎えて制作された楽曲でもあります。Misa Yoneyamaとアルファベットで表記していますこちら、米山ミサちゃん。このnoteではすでに名前だけ登場していました……そう、「Hum!」という楽曲を紹介したとき(すばらしサンドイッチ(ft.『Hum!』)【Sandwiches # 46】)です、あの美味しそうなサンドイッチをつくりあげた彼女がそうです!
当時、彼女はすでに「浮(ぶい)」という名義でシンガーとして活動しており、そのうつくしい歌声のこともわたしもちろん知っておりました。いつか一緒に曲をつくりたいと思っていたし、2枚目のアルバムを制作するにあたって前作『Orang.Pendek』にはなかった要素、女性ボーカルを加えようとしたとき彼女以上の適役は考えられなかった。どんなふうにオファーしたか記憶もおぼろだけれど、彼女はこころよく引き受けてくれました。
ただそのときを振り返ると、おそらくふたりとも共作というものに慣れていなかったのだな。作業自体は互いに「お任せ」の感じで進んだと記憶しています。長い付き合いと信頼があってこそだけれど、いまだったらもっといろいろ話し合うのではないだろうか? レコーディングのさい、その場のアドリヴでお願いした箇所も多々あったことを思い出していまさら申し訳ない気持ちになってしもた。
とはいえ彼女がよせてくれた歌は、ことばは、いっさいの抵抗を感じさせることなくmaco maretsの作品世界にすっ、と浸透し、これまでになかった清冽さを与えてくれるものでした。曲の最後にうたわれるフレーズ、「君はくもった窓ガラス / あけたり しめたり / 夜には星がみえるように」における「くもった窓ガラス」なんて、たまたま出てきたにせよ、わたしがずっとえがきつづけてきた「えがけなさ」や「曖昧さ」をずばり射とめたことばであるし、そこからたしかな「星」をみせてくれた彼女にはただただ感謝しかありません。
いつだったか、彼女のアルバム『部屋の中』(こちらもすばらしいのでぜひ聴いていただきたい)に収録されている楽曲「丘に沈む」のなかで、「Who You Are」でわたしが発したのと同じ「ここにはなにもない」というフレーズをみつけて、偶然の符号にうなってしまった。きっとなにかしら近しいフィーリングというか、体温のようなものを持っているのかしらね。願わくば、またどこかで一緒に制作したいなと思い巡らしております。
しかしてまさに「ここにはなにもない」、その確信こそがこの楽曲を完成させたのだという気もするのです。茫漠とした「なにもなさ」をかかえたわたしたちがおそるおそる、たがいにたがいの輪郭をなぞるようにしてことばを投げ合った……たどたどしい交信の軌跡がそのまま曲となって現れたのが「Who You Are」で、そう考えるとこれ、二度とは生まれ得ぬ種のやつかもしれん。
だいぶ文字数を食ってしまったのでそろそろ終いにしますが、そうや、とかく誰かと一緒に歌うというのはかくもすてきなことやったかと、孤独をいっそう強く感じるいまの季節におもうのでした。
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本日はお便りコーナをおやすみいたします。投稿は引き続き下記フォームにて受付中(明日は返信しますね! 投稿していただいたかた、ごめんなさい)。
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