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パーティのあと(ft.『Daybreak』)【Sandwiches #39】

 スランプ状態にかまけて怒涛のNETFLIX週間に入り、『STRANGER THINGS』から『I AM NOT OK WITH THIS』、『SEX EDUCATION』『THE END OF THE FxxxING WORLD』などなど……思春期まっさかりのティーンエイジャーが主役の作品ばかり見漁っているわたしです。やきもきやきもき、面白いねえ。

 さてデビュー作『Orang.Pendek』の紹介も残すところあと2曲。今日はM9『Daybreak』を聴いていただこうと思います。

 冒頭の「明け方の渋谷 あてもなく彷徨う」とのフレーズが示す通り、オールナイトのパーティを抜け出し、始発の電車を待つ「わたし」のぼやきが綴られている(ようにも読める)こちらの楽曲。主となるのは以前紹介した『S.N.S.』やら『XL』やらと同じく、このnoteでも繰り返し繰り返し書いてきた「東京」へのウックツした感情の発露、そのひとつの変奏とでもいうべきモチーフでありまして、いやはやこのデビュー作はとにかく上京後の不安定さが漏れに漏れ出しておって大変です。もっとも場所としての東京をにらみつけたとて意味などない、といまのわたしは納得していますが(ウェア・イズ・ぴったしかんかん(ft.『XL』)【Sandwiches #37 】)、当時はその馴染めなさが嫌で嫌でたまらなかったのでありましょう。

 まま、トーキョートーキョー! とぶつくさ言うのはもうやめて、今日は自身のパーティ体験についてお話ししたいのです。実をいえばこの『Daybreak』における朝の描写だって実体験がもとになっておって、あれは2014年、いや2015年か? とかくつめたく肌寒い、の出来事やった……。

 遊びにいったのがどんなパーティだったのか、誰と会ったのかはまったく記憶にない。ただ場所が渋谷のどこかのクラブだったことはめっきりばっきり確かだもんで、友達に誘われたか、あるいは好きなアーティストのパフォーマンスがお目当だったのでしょう。そのころは今よりずっと怖いもの知らずなエネルギーで満ちあふれていたから、ひとりでもいろんな場所にでかけていました。

 しかし、そう、あの日のわたしはとにかくひどい頭痛に苛まれており、いったいぜんたいパーティどころではなかったのです。病気のしやすい季節ですから、もしかしたら流行りの風邪かなにか拾っていたのかもしれません。結局、その痛みと反響して響くスピーカーの大音量にとても耐えきれず、わたしは午前3時とかそれくらいの「始発までにはまだ時間がある」歌詞通りのタイミングで、ひとりよろよろとそのクラブを抜け出してしまいました。

 冬の、こごえるような明け方です。なぜか薄着をしていたわたしは、ぞっとするその寒気と、よりいっそう鋭さを増す頭痛に鞭打たれてもはや半狂乱。誰に向けられるわけでもない、ささくれた怒り(そう、それはなぜだか「怒り」の感情にいちばん近いものでした)に目を血走らせ道玄坂をくだりました。けれど御察しの通り、山手線の改札はとうぜん悲劇的にかたく閉ざされておる! おお、行くあてをなくしたわたしは、追い討ちをかけるように降り出したこまかいのなか、ボーゼンと立ち尽くすしかなかったのです。

 その日、やっとのことで自宅にたどり着き、嫌というほど染み付いたタバコと汗の匂いを熱いシャワーで流すまで……いや、流してもなおその寒気は拭い去れず、わたしはベッドで歯をガタガタ鳴らし、わけもなく、涙を流しながら眠ったのでした。

 ……とそんなわけで、オールナイトのパーティつうもんは今でもちょっぴり苦手やったりするのです。それもこれも、ふるえるようなあの冬の朝の出来事のせいだけれど、そういえば、ここで冒頭にあげたNETFLIXドラマの主役たちも一様にパーティ嫌いの属性を持っていたことを思い出した。

 向こうの高校生は、ドラマで観るかぎりだと親の留守に友達を招いてやたら盛大なハウス・パーティをするでしょう、あれって本当にあるのかしらん? えてしてドラマの主人公たちははみ出し者ばかりなので、陽気な友人に無理やり連れてこられるもその場に馴染めず右往左往、最後には我慢できず飛び出してしまう、そんな場面をよく観ます。ぱっと思い出せるだけでも、『I AM NOT OK WITH THIS』のシドニーや、『SEX EDUCATION』のメイヴ(どちらもキャラクターの名前であります)、それぞれが「I don't like party」、そんなニュアンスの発言をしていた気がする。

 そんで彼らの気持ちもわかるのよね。パーティは好きだし楽しいもん、だけど、たまにとてもつらくなる瞬間があるのはなぜやろうか。その場に留まることをあきらめてひとり飛び出してしまうのもよいけれど、じっさい飛び出した先で身を切られるような思いをすることもあるのやし、さらに悪いことに、その痛みは誰のせいでもなく、きっとおのれ自身の内側に隠した刃物のような得体の知れぬ感情の発露であって……ああ、でも待って! その孤独感を見つめて掘り出すとなれば一朝一夕ではいかんので、今日のところはこのへんにしておきましょう。

(ただ、パーティなんか当分できない現状にあっては、あんな最悪な朝の感覚だってちょっぴり恋しい。一刻もはやく安全で楽しいパーティができるようになってほしいと、そんな心持ちでいることをここに付記しておきます)

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