マーダーミステリーの投票のゲームデザイン
この記事は
この記事は「Board Game Design Advent Calendar 2024」(https://adventar.org/calendars/10512)の18日目の記事として製作されました。2020年以降、この時期になると「マーダーミステリー」におけるゲームデザインの記事を発表していますが、今年も同様です。読者は、マーダーミステリーのゲームデザイナーを想定していますが、ボードゲームのゲームデザイナーにも参考になる部分があるかもしれません。特定の作品のネタバレには触れないようにしていますので安心してお読みください。
はじめに
2024年は、東京都知事選挙、衆議院議員選挙、アメリカ大統領選挙、兵庫県知事選挙など多くの選挙があり、選挙活動の方法や、有権者の投票行動についても話題になりました。意外な投票結果に驚いた人も少なくないかもしれません。
選挙において、候補者の中から代表者を決定する手続きが「投票」です。この投票という手続きは、ボードゲームでもよく使われるメカニクスです。特に、マーダーミステリーでは、「容疑者の中から犯人を当てる」という目的の解決方法として使われます。
筆者は「投票」こそが、マーダーミステリーを特徴づけ、おもしろさを左右するメカニクスだと感じています。「投票」が生み出すゲーム性やおもしろさは何なのか、そしてこのメカニクスを活かすゲームデザインは何なのかを分析していきます。
この記事では、
・複数人のプレイヤーの中に1人の犯人役がいる
・情報の入手や話し合いのあと、全員で犯人役だと思うプレイヤー1人に投票し、犯人役を当てる
という形式のマーダーミステリーを主にあつかいます。
マーダーミステリーの中には、プレイヤーの中に犯人役がいなかったり、犯人役をあてる投票ではなかったり、投票そのものがない作品もありますが、そのような作品を否定したり、非難するものではありません。
投票の中にある「ゲーム」
まずは「投票」というメカニクスが、どんな「ゲーム」を生み出すのか、単純なモデルから複雑なモデルに移行しながら、具体的に考えてみましょう。
1.容疑者NPCの中にいる犯人を、投票で当てる
【ルール】
・プレイヤー中に犯人はおらず、全員が探偵役である。
・複数のNPC(プレイヤーが担当しない登場人物)が容疑者で、そのうちの1人が犯人である。
・プレイヤーは「犯人だと思うNPC」に投票する。
・犯人であるNPCに投票したプレイヤーは勝利する。
・犯人以外のNPCに投票したプレイヤーは敗北する。
まず、もっとも単純なモデルです。このモデルでは、あるプレイヤーの投票行動が、他のプレイヤーの投票行動や勝利/敗北に影響をあたえることはありません。つまり、プレイヤー間に戦略的相互依存性(strategic interdependence)は生じません。プレイヤーと作者の間に、「犯人を当てられるか当てられないか」の相互依存性があり、そこに「ゲーム」が生じます。多くの人が考える「ゲーム」ではなく、パズルやクイズに近いものになるでしょう。
2.容疑者NPCの中にいる犯人から1人に投票し、最多得票のNPCを決める
【ルール】
・プレイヤー中に犯人はおらず、全員が探偵役である。
・複数のNPCが容疑者で、そのうちの1人が犯人である。
・プレイヤーは「犯人だと思うNPC」に投票する(1人1票)。
・票を集計し最多得票のNPCを1人決定する。
・犯人であるNPCが最多得票なら、プレイヤー全員は勝利する。
・犯人以外のNPCが最多得票なら、プレイヤー全員は敗北する。
モデル1に「票を集計し最多得票を決める」というルールを加えました。この「投票で1人を決める」というのは、実際の選挙(当選人が1人の場合)でも多く使われている馴染の深いものです。モデル1では、プレイヤー個人が犯人を当てればいいのですが、このモデルでは「最多票」を目指さなければなりません。ここでようやくプレイヤー間に戦略的相互依存性が生じます。プレイヤーは互いに犯人を当てるために協力するようになります。いわゆる「協力ゲーム」の発生です。
3.プレイヤーの中にいる犯人役を、投票で当てる
【ルール】
・プレイヤーの中に犯人役が1人おり、正体は秘匿されている。プレイヤー全員が容疑者である。
・プレイヤー全員は「犯人役だと思うプレイヤー」に投票する。
・犯人役であるプレイヤーに投票したプレイヤーは勝利する。
・犯人役以外のプレイヤーに投票したプレイヤーは敗北する。
・犯人役のプレイヤーは、(規定の人数以上に)投票されなければ勝利する。
モデル1は容疑者はNPCでしたが、「プレイヤーの中に犯人役が1人おり、正体は秘匿されている」というルールが加わりました。いわゆる「裏切り者ゲーム」のメカニクスが加わり、ゲームの構造は大きく変化します。
特にプレイヤー間の戦略的相互依存性に注目すると、犯人役は「自分が犯人役ということがバレない」という目的を持つので、「他のプレイヤーの推理を邪魔する」という行動を密かに行なう可能性がでてきます。犯人役以外のプレイヤーはそれに対抗するために互いに協力していく必要があるでしょう。「正体隠匿」というメカニクスが、プレイヤー間の力学(dynamics)を発生させるのです。
4.プレイヤーの中にいる犯人役1人に投票し、最多得票のプレイヤーを決める
【ルール】
・プレイヤーの中に犯人役が1人おり、正体は秘匿されている。プレイヤー全員が容疑者である。
・プレイヤー全員は「犯人役だと思うプレイヤー」に投票する。
・票を集計し最多得票のプレイヤーを1人決定する。
・犯人役のプレイヤーが最多得票なら、それ以外のプレイヤー全員は勝利する。
・犯人役以外のプレイヤーが最多得票なら、犯人役のプレイヤーが勝利する。
モデル2(プレイヤーの中に犯人役がいる「裏切り者ゲーム」)とモデル3(プレイヤーの中に犯人役がいる「協力ゲーム」)を併せたものです。「裏切り者ゲーム」と「協力ゲーム」が併せることで「準協力ゲーム」となります。このモデルが、現在のマーダーミステリーで一番多く見られるモデルです。
モデル2に比べると、「犯人側」と「探偵側(犯人以外のプレイヤー)」の役割(role)が与えられ、勝利条件がはっきりします。
犯人側の勝利条件:自分以外が最多票になる。
探偵側の勝利条件:犯人役を最多票にする。
また、投票のメカニクスに「最多票」の条件が加わることで、探偵側にはより「協力」が求められます(1人だけ犯人がわかってもダメなのです)。犯人側も、その協力を崩すなど、より多くの戦略を取ることができます。もちろん、ここで「正体秘匿」のメカニクスが生きてきます。協力しようにも本当に信頼できるプレイヤーは誰でしょうか? 他のプレイヤーが言っていることは真実なのでしょうか。
こうして、マーダーミステリーの投票の力学がはじまるのです。
おもしろい「投票」とは
投票というメカニクスは、マーダーミステリーをおもしろくします。では、投票の何がおもしろいのか、おもしろい投票は何なのかを考えてみます。おもしろい投票をゲームデザインするには、何が「おもしろさ」なのか考えることが近道です。
●予測ができない
「どうせあの人が当選するでしょ」という選挙は盛り上がりません。マーダーミステリーの投票も同じです。誰が最多票になるのか、予測できないからこそのおもしろさがあります。「誰が犯人か投票までわからない」ことは何より重要です。
●予測がある程度できる
いきなり上の「予測できない」と矛盾しましたね。重要なのは、
・情報がまったくないために予測不能
・情報があるのだけど予測不能
は別物ということです。犯人が誰かまったくわからなくて、ランダムに選ぶような状態はおもしろくありません。それぞれのプレイヤーの思考はある程度わかった上で、それが組み合わさったとき、そして誰かが嘘をついているとき、誰になるかわからないのがおもしろいのです。そのためには、「まったくわからない」ではなく、「○○だと思うけど」とある程度の予測ができるのが重要です。
●情勢がわかる
実際の選挙でも、前情報を入れず開票を見るよりは、どこの陣営が有利なのかなどの情勢を知ることで、よりおもしろくなります。マーダーミステリーも、自分だけで考えるよりも、他の人の推理を聞いたり投票予定を聞くことで、よりおもしろくなります。多くのマーダーミステリーで、投票の前に個々の推理を発表するフェイズがあるのはこのためです。
●自分の1票の影響力が大きい
実際の選挙では「自分が投票しても何もかわらない」と投票をしない人もいますが、確かに自分が投票しても投票しなくても結果が同じではおもしろくありません。「自分が投票したから投票結果が変わったんだ」という影響力があるのが好ましいです。ただ、プレイヤーが少人数のときには1票で結果が左右されることも多いですが、多人数の場合は1票の影響力は小さくなってしまいます。それでも、自分の1票がキャスティングボートを握っているとなれば、投票はおもしろくなるでしょう。
●票をまとめる
自分以外のプレイヤーの投票行動を操って、自分の望む対象に投票させます。実際の選挙では「票をまとめる」と呼ばれる行動ですね。投票で1人を決めるには、最多票をとらなければなりません。複数の勢力がある場合、票数を多くまとめていかなければなりません。議論などで意見をまとめ、票を固めていくのは、「協力ゲーム」の醍醐味です。逆に票を割って他のプレイヤーを騙すのも戦略でしょう。
●意外な投票
これは投票自体ではありませんが、投票はマーダーミステリーにおけるクライマックスでターニングポイントでもあります。意外なサプライズを仕掛けるなら、投票の前後が最も適したタイミングです。投票で最多票を得た人物が殺されてしまったり、「昨夜の殺人事件の犯人を選ぶ」はずの投票が「10年前の殺人事件の犯人を選ぶ」に突然かわったり、投票がわりと定番のメカニクスだからこそ、変化球は効果的です。
●投票とエンディングの整合性
上で挙げた「意外な投票」とは、逆のことのようですが、投票の結果はその後の展開に正しい反映されるべきです。投票で正しく犯人を当てたのに犯人がさらなる犯行をしてしまったり、投票で犯人を当てられなかったのに突然出てきた探偵によって解決がされてしまったりしたら興ざめです。投票はマーダーミステリーの中でも最も厳格なルールの1つです。投票結果は正しく反映されないと、おもしろくありません。
投票の力学のゲームデザイン
投票のおもしろさとは何かを考えると、投票をどうゲームデザインすればいいのかわかってきたのではないでしょうか。先に示したモデル4を、投票がおもしろくなるようにゲームデザインしてみましょう。
結論を言えば、投票をおもしろくする上で一番大事なことは、キャラクター間の力学をコントロールすることです。
●情報の非対称性
キャラクターごとに情報の量や内容が不均衡で、情報格差があると、実は投票がおもしろくなります。ある人物は情報をしっかり持っていて的確に犯人に投票でき、別の人物は判断材料となる情報が少なく誰に投票すればいいかよくわからない場合、情報を持つ人物は、情報を持たない人物を操りやすくなります。
だからといって、情報を持つ者が必ずしも有利とは限りません。情報を一番持っているのは犯人のはずですから、情報を出しすぎると犯人ではないかと疑われてしまいます。そして、実際に犯人は情報で他の人物をコントロールしようとするのです。情報の濃淡がはっきりしているからこそ、誰を信じ、誰を信じないかが「ゲーム」となりやすいのです。
マーダーミステリーでキャラクター格差があるのは好ましくありませんが、情報についてはこの限りではありません。ある情報(たとえばアリバイ)に詳しい人物が、他の情報(たとえば過去の事件)については全く知らなければ、バランスは取れます。そもそも情報をほとんど持ってなくても、他のこと(たとえば鉄壁のアリバイがある)で活躍できればいいのです。
情報をどう持たせるかをゲームデザインできれば、キャラクター間の力学をコントロールできるかもしれません。ただ、プレイヤーが想定したとおりには動かないのが世の常ですが……。
●ミッションの多様化
モデル4では、
犯人側の勝利条件:自分以外が最多票になる。
探偵側の勝利条件:犯人役を最多票にする。
というミッション(勝利条件)を持っていました。これをさらに、キャラクターごとに個別のミッションを持たせることで投票の力学は複雑になっていきます。たとえば、
・特定の人物が投票されないようにする
・特定の人物が最多票になるようにする(犯人でなくても)
・最多票が2票以下になるよう、票を割る
のようなものです。これによって、「犯人役を最多票にする」以外の思惑が発生し、(他のプレイヤーから見て)意外な投票行動になります。「なんであんなことしたの?」となるかもしれませんが、感想戦で「実はこのキャラクターは○○だったんだ」となりそれが納得の理由なら盛り上がることでしょう。
ここで重要なのが、投票行動にかかわるミッションかどうかです。投票はプレイヤーの思惑が一番絡み合う場面です。そこにかかわるミッションを持つことでより多くの人物との力学が発生します。逆に「特定のアイテムを集める」「特定の人物に愛の告白をする」ようなミッションは浮いた(ひとりよがりな)ものになりがちです。とはいえ、すべての人物のミッションが投票にかかわるものだと、収拾がつかなくなってしまうかもしれません。筆者の経験だと、多くとも2/3にしておくほうが無難です。
●犯人の協力者の設定
マーダーミステリーにおいて、犯人役は間違いなくゲームのキーマンになりますが、それゆえに犯人役が負う責任は重いものです。また、犯人が1人でその他の人物がそれを追い詰めるという状況は、犯人が圧倒的に不利で、また単純な力学になりがちです。プレイヤーが少人数のときはまだ良いのですが、プレイヤーが10人いて、犯人1人が他の9人を相手にするのはなかなか骨が折れます。
これを解消するためのメカニクスが「犯人の協力者」です。人狼ゲームなどでは「狂人」と呼ばれている役割です。犯人の協力者は、
・犯人役を最多票にしない
・自分役を最多票にする
などのミッションを持ち、通常の人物の「犯人役を最多票にする」とは逆の方法の力学が働きます。犯人の協力者自身は、犯人が誰か最初から知っている場合と、知らされていない場合があります。後者は、「犯人が誰か当てる」ことが前提になり、プレイの難度はかなり高くなりますが、それがおもしろさになったり、意外な展開になったりします。また、犯人が単独ではないということは犯人役によっては大きな安心感になります。
犯人側が、犯人1人だけではなく、犯人チームになるということは、ゲーム構造としては「チーム戦」のメカニクスになります。次に説明する「チーム戦」の、もっとも単純な構造になるでしょう。
●チーム戦
人物がすべてが別のミッションを持ち、それぞれの方向をバラバラに目指すよりも、いくつかのミッションで協力体制が組めるように派閥を設定しておくのは、投票の力学を設定する上で便利な方法です。
先に挙げたとおり、一番わかりやすいのは、犯人勢力と、探偵勢力の「チーム戦」です。
【犯人勢力】
犯人:事件の実行犯。自分が投票で最多票にならないようにする。
犯人の恋人(いわゆる狂人):犯人を愛している。犯人が投票で最多票にならないようにする。
【探偵勢力】
探偵:犯人が投票で最多票になるようにする。
探偵の助手:探偵が犯人に投票する。
のようなゲーム構造です。「犯人vs探偵」の2チームの対立が一番の基本になりますが、これに第3勢力、第4勢力が加わっていくとより複雑な力学が発生します。「犯人をつかまえるか/つかまらないようにするか」という一軸では、第3勢力、第4勢力を設定するのは難しいですが、新たな軸を作れば簡単です。たとえば、「捕まえた犯人を処刑するか/許すか」や「財宝の神像を手に入れるか/破壊するか」のような感じです。
勢力や派閥は、キャラクター間の力学を単純化しわかりやすくするために用いるものです。ミッションの軸がどうなっているかはわかりやすくし、むしろ誰がどの勢力なのかが謎になっているほうが、ゲームデザインしやすいでしょう。
●浮動票
チーム戦になるように投票をゲームデザインするとき、がちがちに勢力、派閥を設定するよりも、どの派閥にも属さないような人物を作ると、ゲームがおもしろくなります。いわゆる「浮動票」です。
実際の選挙でも、それぞれの政党の支持者の票数は固定され、特定の政党の支持者ではない人(無党派層)の票(浮動票)が、投票の結果を左右します。特定の政党の支持者は、無党派層に働きかけ、自分が支持する政党に投票するよう訴えます。
マーダーミステリーでも、「誰に投票するか予想できない=誰にでも投票する可能性がある」人物を設定することで、投票結果がどこに転がるかわからず、スリリングになります。そのような無党派層に対しての各陣営のプレゼンや説得工作は白熱化するでしょう。
浮動票は、どの陣営でも逆転可能になる数に設定すべきです。例えば犯人勢力が2票、犯人についての情報を確信的に持つ可能性があるのが3人だとしたら、2人は浮動票になるように設定しましょう。
●キャスティングボート
上の「浮動票」に大きく関連してくるのが「キャスティングボート」です。キャスティングボートとは、2つの大きな勢力が互いに票数を争っているときに、少数派勢力が投票の決定権を握ることです。たとえば、勢力Aが5票、勢力Bが4票持っているとき、第3勢力Cはたとえ2票しか持っていなくても、CがAにつくか、Bにつくかで結果がかわってきます。このような拮抗した状態は、投票をおもしろくします。
特にキャスティングボートを意識したいのは、少人数のマーダーミステリー、特に3人用です。
キャラクターA:犯人。自分が犯人だとわかっている。
キャラクターB:レッドヘリング、かつ犯人がAだとわかっている。
キャラクターC:犯人がAかBか迷っている。
このとき、Cがキャスティングボードを握っています。Cに対して、AとBは「自分が犯人でない」ことを必死にアピールしなければなりません。これは、力学的に均衡が取れている3人用マーダーミステリーのモデルの1つです。
投票というメカニクスの可能性
ここまで投票でのキャラクター間の力学を考え、どうすればおもしろい投票になるのか考えてきました。最後に、投票のメカニクスそのものをおもしろくする方法についても考えてみましょう。マーダーミステリーの投票のルールは作品によってそう違いはなく、汎用的なルールになりがちですが、ここで一風変わったルールにすることで、システム的な特徴をつけることができます。
●「何に」投票するのか
多くのマーダーミステリーでは「犯人役と思われるプレイヤー」に投票します。それが推理モノというモチーフに一番自然になじむルールです。しかし、かならずしもそれにとらわれる必要はありません。
・犯人かどうかにかかわらず拘束しておきたい人
・生贄として選ばれる人
・次期リーダーとしてふさわしい人(まるで普通の選挙のように)
・告白をしたい相手(フィーリングカップル5vs5のような)
たとえば、「拘束しておきたい人」は、実際にグループSNE/cosaicの「ミステリー・パーティ・イン・ザ・ボックス」シリーズで見られる戦略です。実際には「犯人役だと思われるプレイヤー」に投票するのですが、最多票の人物は拘束され、その後のアクションができなくなることから、「アクションをするとヤバそうな人」に投票する人もいます。
「犯人に投票する」と「告白したい相手に投票する」では、まったく異なる力学が働きます。テーマ(推理、ホラー、恋愛など)を活かせるような投票システムをゲームデザインするとよいでしょう。
●同票のときの処理
投票では票が割れて最多票が1人に決まらないときがあります。プレイヤー人数が偶数のときはもちろんですし、どんな人数でも票が同数になることはありえます(全員が1票など)。まずは、このような状態をかならず想定しましょう。マーダーミステリーのルール不備の一番多いのは「票が同数のとき」の処理が書かれていないことです。
そして、票が同数という特殊な状況のときこそ、ゲームデザインの腕のみせどころです。再投票で1人を選べるときにはそうすればいいですし、特殊なルールを入れることもできます。
・票が同数のときは、特定のキャラクターの一存で決める
・票が同数のときは、全員の連帯責任とする
・票が同数のときは、時間がループする
・票が同数のときは、ランダムで1人が死ぬ
など、様々なルールが考えられます。たとえ酷い処理だとしても、プレイヤーは同数を回避すればいいだけです。
●投票の仕組みを変える
多くのマーダーミステリーでは、投票は1回だけで、その1回の結果だけで拘束する人を決めます。しかし、実際の選挙では、複数の手順を踏まえることも少なくありません。たとえば、「上位2人にしぼり、その2人で決戦投票をする」などです(自民党総裁選挙はそうでした)。また、人狼ゲームなどは、複数回投票し、投票ごとに投票対象が1人へっていきます。マーダーミステリーで活かすなら、まずは「犯人じゃないと思われる人」に投票し、候補者を減らしていく感じでしょうか。複数回の投票を行なう場合、それまでの投票で誰が誰に投票したかが重要なヒントになるかもしれません。
投票のシークエンスを変えることで、別の結果になったり、別の戦略が必要になってきます。
●投票できる票数を変動させる
もう昔の話になりますが、AKB48の選抜総選挙は(少なくともファンの間では)とても盛り上がりました。その大きな理由の1つは、「1人1票ではない」ことです。ファンはCDを1枚買うことで投票券を1枚得ることができます。他にも様々な方法で投票できる票を増やすくことができました。つまり、投票への影響力を増やすことができたのです。政治の上での選挙では公平さが必要ですが、ゲームなら不公平も「非対称性」ですませることができます。
マーダーミステリーでも、「投票までのフェイズで、NPCを買収し、投票できる票数を増やす」のようなルールをつけることができます。多くのボードゲームで使われているような「リソースを支払って票数を増やす」のような戦略ができるのです。こうなると、従来のマーダーミステリーとは異なるマルチゲームになっていくかもしれませんね。
まとめ
最後に、マーダーミステリーの投票のゲームデザインについてまとめます。
・投票は、マーダーミステリーを特徴づけるメカニクスの1つである。
・「最多票の1人を決める」という投票のギミックは様々な力学を発生させる。
・投票のおもしろさは、結果の意外性と、ある程度操作できることである。
・キャラクター間の力学を想定してゲームデザインすると投票はおもしろくなる。
・投票のギミックにはまだまだおもしろくなる可能性がある。
プレイヤーの動きを色々想定してゲームデザインをしても、プレイヤーはなかなかそのとおりには動いてくれないものです。だからこそゲームデザインは楽しいのです。プレイヤーが想定どおりに動いたときは「してやったり」となりますし、想定外の動きをしたら「そう来るか」となります。ゲームデザイナーであるあなたが一番ドキドキできるよう、投票をゲームデザインできるといいですね。