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やわらかな針◆たびことば
「つまらない場所に案内して、ごめんなさい。でも、見てもらいたかったの。」
愛知県岡崎市は、きりりとした伝統的な景観に長閑さが漂う街だった。
お城を見上げて八丁味噌蔵をじっくりと見学し、最後に訪れた場所。
そこは、高齢者や支援が必要な方にお弁当を届ける地域活動の調理場だった。
ボランティアの方々は明るい声を上げながらテキパキと手を動かし、彩り豊かなお弁当を作っていく。
笑いが絶えない楽しげな活動の土台には、誰かの生活を、命を支えているという揺るぎない責任感があった。
私はいつも自分のためだけに生きている。
岡崎への旅で、そんなことに気が付いた。
それも良し、どんな風に生きても良し。
でも、あれから考えずにはいられない。
私の勝手な生き方は、柔らかな針で優しくチクリと窘められたのだ。
誰かのために協力し合う、あの調理場を見たから。
生一本に働くその手を、確かに美しいと思ったから。
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