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今日のことを忘れませんと、私は約束した◆たびことば
瞳に凪いだ海をたたえた方だった。
広島、平和記念公園の朝。
一人で慰霊碑を見つめていた私に声を掛けて下さったおじいさんは、被爆者であった。
あの惨劇について質問を重ねる私に、彼は貴重なお話をして下さった。
そして、私が重荷を背負わないよう配慮しながらも明るい気さくさで、足首の古い傷跡を見せてくれた。
彼は、よくここへ来るのだと言った。
「悲しいことを思い出して、お辛くないですか?」
「うん。でも、ここに来れば皆に会えるからね。友達や親、もういないひとと話がしたい時にね。」
朝の光と人々のさざめきが満ちる広場を、おじいさんは穏やかに見渡していた。
耐え難い悲しみ、忘れたい記憶を背負っていてもなお、その眼差しは深い寧静を宿していた。
奪われてしまった大切なひとと会うために、彼はこの場所に佇む。
見知らぬ若輩者に傷跡を見せてくれたあの方の静かな覚悟は、私の胸の奥に今も灯っている。
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