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嘘つきと雨◆たびことば



 「天気が悪い。」とはどうして雨の日のことをいうのか、ずっと不思議に思っていた。
 雨は、いつも嫌われものだ。
 催花雨という言葉は、だから、雨の優しさに名前がつけられたようで嬉しい。
 東京にも、その雨は降る。
 早く花咲け、と落ちてくる。野の花など見当たらない、コンクリートの街をめがけて。


 雨が好きだと言うと、変わり者を気取っていると思われた。
 そう気付いてからずっと、雨が嫌いなふりをしてきた。
 巻き髪が乱れる、靴が傷む、惨めな気持ちになる、だから雨はイヤだってこと?
 東京の雨も、時には花を咲かせるのに。

 
 閉ざされた蕾を育む雨、頑なな種子を潤す雨よ。
 誰も応えてくれなければ、催花雨の名前を剥奪されてしまう泥水。
 
 
 雨が嫌いだと、嘘を吐いた。
 アスファルトの上に傘を投げ出し灰色の雨粒に打たれれば、この嘘つきにも花が咲くだろうか。
 私を咲かせる雨と信じて、降り注ぐ酸にも身を晒そう。






 

読んでくださり、本当に有難うございました。 あなたとの、この出会いを大切に思います。 これからも宜しくお願いします!