この世界も茶碗の中◆たびことば
両掌におさまる土塊一つ一つに、世界が浮かび上がる。
それは、早春の雪解け。
闇にある光一粒。
とめどなく流れる大河。
紅蓮の炎と燃え上がる、恋。
陶芸家、樂直入さんの作品を見たのは、水面に浮かぶお茶室を有する滋賀県の佐川美術館。
飾り気のない壁と空間が、展示作品を際立たせる。
うすあかりの中の数々の茶碗に、ただ息を呑んだ。
茶碗など、どれも已己巳己だ。
縁の欠けた物でも事足りる。
それではなんなのだろう。この創造は。
選び抜かれた作り手は小さな器にさえ魂を吹き込み、宇宙を宿らせる。
何かに似ているようで、それらは何にも似ていない。
芸術家は、限界を知らないのか。
表現出来ないものなどないのか。
世界を閉じ込めた茶碗を見てしまうと、人間の至高の業にどうしようもなく憧れる。
いつか、そういうものを表現したいと胸を焦がす。
ひとつのささやかな夢を見ることさえ、ままならないというのに。
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