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お札の人 1

マサル氏は膨大な富を築いた成功者だった。
時には限りなくグレーなビジネスも手にかけ、
今となっては金が金を生む
利ザヤだけでも億を稼ぎ、
その金は株や不動産や車にもつぎ込んで、
この先どうしたら良いか悩んでいた。
そうなのだ、
数千億という金を手に入れてからも
マサル氏は金の事で悩んでいたのだ。

この金をどう守るべきなのか。

マサル氏はイタリア製の重厚なチェアに
腰をあずけながら、
幾枚もの名刺に目を通していた。
そしてその中の一枚に目が留まった。
その名はかつてのマサル氏のライバルだった。
株で戦い、
土地で競り合い、
女性からの羨望の眼差しを奪い合った。
しかし彼はいつしかマネーの世界から姿を消し、
噂をきけば農業をしているという事を聞いて
マサル氏は彼に勝利したものだと思っていたが、
その彼がフォーブスの表紙を飾った時は、
勝ったのではなく、
次元の違う世界に足を踏み入れ、
貧困分野での慈善活動で世界的に名を馳せた
事を思い知ったのだった。

その名刺には携帯の電話番号が記されていた。
まさかとは思ってみたが、
マサル氏はその番号を押した。
そしてまさかとはうらはらに彼が電話にでた。

彼の声音は以前とは変わっていた。
かつては相手の裏をさぐるような、
陰湿でざらついた声であったのに、
今では快活としていて明るく、
エネルギーに満ちていた。
彼なら知っている。
彼なら金を守り、
さらに豊かな人生を送る方法を知っていると、
他愛もない会話からマサル氏は読み取った。

マサル氏は素直に彼に打ち明けると、
彼は単刀直入にマサル氏に答えてくれた。

「金をまもる方法ね!簡単な話さ。
マインドの問題だよ。
いいコンサルを紹介するよ」
マサル氏はコンサルという
安易な回答に困惑した。
彼は続けた。
「要はさ、踏ん切りつけられるかって事だから。
君の成功が守れるかどうかは君のマインドしだいの話だよね」
彼は軽妙に答えた。
「そのコンサルっていうのもさ、見た目がね、
かなり気に障るんだよ。
ダンディで余裕を醸し出してる
四十代って感じでさ。
つけてる香水も妙にうさん臭くなるほど
胸くそ悪いんだけど、
それも君のマインドしだいさ。
試されてるのか騙されてるのか。
会ってみれば、すぐに分かるよ」
そして彼はそのコンサルの会社名と
電話番号を教えてくれたが、
会社名を聞いてマサル氏は思わず聞き返した。
「えっ、人生大成功コンサルタント?」
マサル氏はこんなバカみたいなコンサル会社に
自分の金が守れるのか不安しかなかった。

<つづく>