お札の人 2
あまりに信用ならないなら相手なら
電話を切ればいい話ではないかと、
マサル氏は試しに人生大成功コンサルタントに
電話をしてみた。
そう、試しに。
相手はワンコールで電話に出た。
「ありがとうございます。
人生大成功コンサルタントです」
マサル氏はその男のありがとうございますの”あ”を聞いた瞬間電話を切ろうと思った。
甲高い声と妙に語尾が上がる
その口調に腹が立った。
しかし、紹介をしてくれた彼の言葉が
頭をよぎった。
「それも君のマインドしだいさ。
試されてるのか騙されてるのか。
会ってみれば、すぐに分かるよ」
”自分は試されているのだ“
マサル氏はそう自分に言い聞かせて
電話の男と話し始めた。
「友人に御社を紹介してもらったんだが、
ビジネスの事で少々相談にのってもらいたくて、、、」
話しながら、
その男の受け答えにいちいち腹が立った。
「アーハァー」
「アイシー」
「オーケー」
「コンティニュー」
英語で受け答える。
甲高い声音で。
そしてマサル氏の話を一通り終えると、
「それでは日取りの良いときに
一度伺いましょうか?」
と男は言い、
「手付金として一億円を現金で
ご用意くだされば」
と少し間をおいてつけたした。
マサル氏は一瞬ひいた。
一億円。
しかし、
これも自分を試しているのだと言い聞かせた。
この一億で数千億が守られるのであれば
安いではないか。
「お安い御用で。
それでは今からいかがでしょう」
マサル氏はわざと無理な指定日を言ってみたが、
「かしこ」
人生大成功コンサルトの男は即答した。
まったく腹が立つ返答だった。
30分後、メイドがマサル氏に
「お客様がお見えになりました」
と伝えてきた。
マサル氏は書斎に通すよう返答し、
まもなく書斎をノックする音がした。
マサル氏は「どうぞ」と答えた。
ドアが開いた瞬間、マサル氏はむせ返った。
柑橘系か、フラワー系か、えも知れぬ香水の塊に
押し返されそうになり、友人の言葉のままの男がそこに立っていた。
ダークスーツに濃紺のタイ、程よい日焼けをして
濃い眉毛、短いあごひげは整っており、
まさにダンディで余裕を醸し出している
四十代という出で立ちで香水がきつすぎた。
胸くそ悪。
マサル氏はやはり断ろうと思ったが、
これは私のマインドを試しているのだ、
ここまで来たらこの一億を使って試すまでだ。
マサル氏はそう決心をすると、
人生大成功コンサルタントのダンディで余裕を醸し出してる40代の男をソファに座るよう促した。
「どうぞ、
こちらでくつろぎながら話しましょう」
<つづく>