【社会課題×クリエイティブ】実験的オンラインイベント「Art and Creativity for COVID-19」を開催しました
2020年5月23日、土曜日。コロナウイルスによる緊急事態宣言の解除についてのニュースが慌ただしく流れる週末に、morning after cutting my hair, Inc.が主催するオンラインイベント「Art and Creativity for COVID-19」を開催しました。
「オンライン」「リアルタイム制作」「社会課題×空想都市」「初対面でのチーム制」という初めての要素盛りだくさんの実験的イベントではありましたが、なんとか無事に形になったので、記録も含めてこうしてnoteに公開させていただきます!
・社会課題に興味があるけれど、関わり方がわからない方
・新しい形での社会課題への接点を生み出したいと模索している方
・クリエイティブやアートなどをオンラインで成立させられないかと考えている方
・何か面白いことに興味がある方 はぜひ最後までご覧ください。
1.「Art and Creativity for COVID-19」とは
(上:企画コンセプト)
コロナウイルスの感染拡大によって、わたしたちの眼前にはこの数ヶ月の間でたくさんの課題が突きつけられました。「ウイルスの影響で」という声が多く聞こえる中、わたしたちは社会課題についてずっと向き合ってきた会社として、「果たして本当にそうだろうか?」と、一度立ち止まって見つめてみたいなと考えました。
今浮き彫りになっているさまざまな課題は、新たに生まれた課題ではなく、これまでの社会にも存在していた課題。それならば、今こそ「これからの社会」について改めて考える、良い機会なのではないのでしょうか。
今回のイベントは、集まった参加者をランダムでチームに振り分け、チームごとに集まったスキルを掛け合わせながら、設定した社会課題に関する作品制作をおこなっていただくという内容のもの。
「何か」をつくる過程において何を見るのか。
その上で、一体どんなものが生まれてくるのか。
それらを観察するべく、「Art and Creativity for COVID-19」は開催されました。
/// 制作の3つのステップ
(上:当日の運営スライド。この3つのステップで制作に入っていきます)
/// 当日の参加クリエイター&チームの振り分け
◆Aチーム
太田琢人(コンセプトメイキング、イラレ/フォトショでの制作、3D制作)
田野実温代(商品パッケージやチラシ等のデザイン、野菜料理)
中西須瑞化(小説、エッセイ、詩歌、コピーなど文章表現全般、写真、音声)
◆Bチーム
岩倉昂史(ディレクション、企画、WEB/グラフィックデザイン、映像構成、写真)
廣安ゆきみ(小説、ライティング、キュレーション)
田中美咲(コンセプトメイキング、フォトショでの制作、Environmental Art)
◆Cチーム
黒葛原 道(デザイン、Webデザイン、EC関連、写真、雑学)
井上豪希(料理人のスキル全般、コンセプトメイキング、写真と動画、AI)
田島佳穂(Webデザイン、UI/UXデザイン)
2.制作舞台にしたのは、空想都市「中村市」
今回のイベントは当初、現実世界を舞台に「コロナウイルスによって変化した社会」といったテーマを設定して実施しようと考えていました。ただ、それだと今まさに起こっている悲しみや課題に、どれほど時間を費やしても向き合いきれないといったことが起こりうるかもしれない。
今まさに変化の最中にある課題について、どこか萎縮した状態で思考しなくてはならないような感覚になるかもしれない。そうした考えから、「空想都市」という世界を舞台に使わせていただき、より純粋に柔軟に、社会課題というものに向き合い作品を生み出すという試みをしてみることになりました。
「空想都市 中村市」とは
「地理人」こと今和泉隆行氏の手によって描かれた、「極限まで現実に近い空想の都市」。上記のサイト上には空想都市の精緻な地図が公開されており、誰でも自由に閲覧することができるようになっています。
https://imgmap.chirijin.com/
(ぜひ一度ご覧ください!)
今和泉隆行(地理人)
7歳の頃から空想地図(実在しない都市の地図)を描く空想地図作家。大学生時代に47都道府県300都市を回って全国の土地勘をつけ、地図デザイン、テレビドラマの地理監修・地図制作にも携わる他、地図を通じた人の営みを読み解き、新たな都市の見方、伝え方作りを実践している。
Twitter / 著書「地図感覚」から都市を読み解く(晶文社出版)
一度見ていただければ分かるように、「リアルと非リアルの狭間」のような都市空間が地図上に描かれています。当日、今和泉さんから直接中村市の特徴について教えていただく時間も設けたのですが、イベント参加者はみんなこの話に釘付けに(笑)。アンケートでも「もっと聞きたい!」「一日中話してほしい!」などといった熱烈な声が目立ちました。
今回はこの空想都市である「中村市(なごむるし)」を舞台として、今社会に起こっている課題を踏まえ、各チームで社会課題についての作品制作をおこなっていきました。
ふだんから社会課題を眼差している方もいれば、ほとんど考えたことがないという参加者もいる中で、
・まずは社会課題とはどういったものがあるのか
・今コロナウイルスによって顕在化/変化している課題とはどのようなものか
・それぞれの課題の深掘りやリサーチの方法
を伝え、各チームでディスカッションをした上で制作に入りました。
3.当日生まれた各チームの作品
■Aチームの作品
なごむらー屋「Central village」
・テーマとした社会課題
フードロス/環境問題/(地域格差・差別)
・作品概要
伝統野菜「なごむる菜」を使い、近隣住民のロス食材を活用した現代版なごむらーを作るお店。ロス食材以外の通常メニューもいくつかあり、それらには生産過程で環境負荷の高い肉を使わず、地域にある古い伝統料理・文化にある昆虫食を活用している。空想の店舗開店に至るまでのこのエリアの地域課題(格差、地域差別)を描いたストーリーと、店舗のメニューイメージ、空想食材である「なごむる菜」「なごむらー」の歴史・文化背景を作品として制作。空想都市中の、工場町と開発エリアの二つを川で隔てて隣接する「中ノ宮」エリアを舞台として選定している。
【作品の閲覧はこちら】
メニューイメージ/文化歴史背景設定/ストーリー
メニューイメージ:田野実温代
文化歴史背景設定/アイデア:太田琢人
ストーリー作成:中西須瑞化
■Bチームの作品
商店街のお店が日がわりで、あなたの家までやってくる。
「旭田うごく商店街」
・テーマとした社会課題
都市開発/地域コミュニティの断絶/高齢化
・作品概要
エリアとして選んだ「旭田」は、開発エリアと昔ならではの寺院や銭湯のあるエリアで別世界となっている。古くから住む人々と、新しく越してきたファミリー層は、互いの層を見知ってはいるものの日常的な接点が少なく、コロナウイルスによりその接点はいよいよ無くなり、エリア間・世代間の隔絶が深まると予想される。
また、古くからの商店も、この地域に興味をもった若者による古民家カフェなどの新店舗も潰れてしまう可能性がある。それらを解決すべく、商店街のお店が移動販売車という形をとって、開発エリアをも巡り新たな接点を生むというとりくみを設計した。
【作品の閲覧はこちら】
旭田うごく商店街 企画書
移動販売車デザイン:岩倉昂史
背景デザイン:田中美咲
企画書、車名、コピー:廣安ゆきみ
■Cチームの作品
マイクロブリュワリーパブ「Against Brewing.co」
・テーマとした社会課題
雇用創出/コミュニティー醸成/エシカル消費/フードロス
・作品概要
地域における大小様々な社会課題を複合的に解決できる可能性があるマイクロブリュクワリーを設計。オーナーの人物設定からストーリー設計、プロダクトデザイン、ECサイトのイメージまでを制作した。
空想都市の選定エリアは「旭田」地区。オーナーである向田兄弟の地元がこのエリアで、家業として営む酒販店は「つうじまち商店街」に位置していると設定。この商店街の空き店舗活用/まちづくりを目的とするため、このエリアの地域的特徴や課題を前提にして制作を進めた。
【作品の閲覧はこちら】
コンセプトストーリー / パッケージデザイン / ロゴデザイン / ECサイトデザイン / ECサイトデザイン(フル)
コンセプトメイキング:井上豪希
ECサイトデザイン:黒葛原道
パッケージデザイン:田島佳穂
4.社会課題×クリエイティブの可能性
私たちが過ごす社会には、これまでもこれからも、さまざまな社会課題が横たわっています。
ただ、すべてのことにおいて言えるのは、「いかに多面的に物事を捉えようとするか」「限られた接点や情報から先の奥行きをいかに想像するか」ということの重要性ではないかと感じます。
今回のイベントでは、「制作」というゴールへ向けて各チームが非常にフレキシブルに議論をおこない、短い時間ではあったものの、「いかに課題を柔軟に捉え解決に向かわせるか」「解決とは何であるのか(どのようなものが解決に繋がるのか)」といったことを自然発生的に、能動的に考える時間が生まれていました。真正面から捉えるだけではなく、敢えて解釈を歪ませてみたり、拡張してみたり、異分野とかけあわせてみたりといった試行錯誤の過程は、一参加者としてもとても有意義な時間であったのではないかと思います。
社会課題×クリエイティブには、誰もが己のもつ経験や知見で参加できるという良さがあるように感じました。違いがあればあるほど、議論は発散し、拡張され、一筋縄ではいかないアウトプットへの道筋が生まれます。本来誰もが触れているはずの「社会課題」というものについて、誰もが自分の視点から捉え、それを抵抗なく表現できる空間の設計というものは、今後もますます必要になってくるのではないでしょうか。
今回はかなり実験的試みでもあり、「制作時間が全然足りない!」という声も多かったのですが(笑)、今後より良い、「人の心が動き続ける」社会へ向けて繋げていく糧にできればと思います。
ご参加いただいたみなさま、空想都市という舞台を提供してくださった今和泉さん、ありがとうございました!