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ニューヨークの写真家|ネルソン マンデラの笑顔
1本の電話があった。南アフリカ共和国のケープタウンへ飛び、ネルソン マンデラ元大統領の肖像写真を撮るという依頼だった。2000年のことだ。
撮影場所はマンデラ氏が18年も収監されていたロベン島の独房だ。
身に余る光栄なことは間違いない。あまりにも偉大な、おそらく史上最高の人道主義者であろう人と向き合う機会が与えられたことで、写真家リチャード コーマンの魂が引き締まった。
ケープタウンまで27時間のフライト。
前夜に警護隊から、マディバと共有できる時間は数分だと知らされていた。マディバとはマンデラの氏族名。南アフリカ共和国では愛情、尊敬の証としてそう呼ばれている。
翌朝、ボートでロベン島に向かった。リチャードはロベン島の独房の中で不安を抱えながら彼の到着を待った。
数時間後、足音と共に籠った声が近づいてきた。戦慄が体中を走った。独房から急いで外に出ると、警護人を引き連れたネルソン マンデラ元大統領がいた。
リチャード
「お目にかかれて大変光栄でございます」
マンデラ氏
「お会いできて光栄です」
温かく、謙虚に返してくれた。
リチャード
「ここに戻るのは辛いことではなかったですか」
マンデラ氏
「この場にいることが大きな喜びです」
今にして思うと、長い苦しみの末に祖国・世界を変えたという心の平安があったのだろう。
共に独房へ歩み入った。
わずか7分間。
9枚の写真を撮った。
彼はずっと笑顔だった。
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リチャードの話は目を閉じて耳を傾けることが多い。
話が終わると同時に私は目を開く。
マンデラ氏の柔和で尊い笑顔がそこにあった。
笑顔は誰にでも備わる大切な武器だ。
幸せや平和への扉を開いてくれる。
この笑顔を次世代へ繋げていく責任は我らにあるのだと、またゆっくりと目を閉じた。
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