ある日森の中くまさんは嘆いた
熊が人里に降りて来て捕殺されるケースが後を絶ちません。殺したくて殺している訳ではないという正論と、熊が可哀想だという感情論を対立させても、解決にはならないでしょう。
昨年は熊に関する書物をかなり読みました。
吉村昭「羆嵐」「羆」「熊撃ち」
木村盛武「慟哭の谷」
中山茂大「神々の復讐」
これらは、むしろ熊の恐ろしさを身につまされる様な作品です。
獣害史最大の惨劇「三毛別羆事件」の希少な目撃者である大川春義氏は、この事件の犠牲者の仇を討つために猟師となり、生涯に羆を100頭以上仕留めました。
彼は、数多くの羆を仕留めた一方、羆を山の神とも崇めており、死んだ羆の慰霊のための「熊祀り」を欠かすことがなかったそうです。「山に入ったら、熊の悪口は一切言ってはならない」と口癖のように語っていたそうで、羆を自然の一部とみなした上での崇敬の念が感じられます。
犠牲者たちの仇のために羆狩を続けた大川氏が、100頭討ちを達成した後、「本当に悪いのは羆ではなく、その住処を荒らした自分たち人間の方ではないか」と考えたということは、実際に羆を仕留め続けた本人の話なだけに説得力があります。
害獣というのはあくまで人間側からの視点であり、彼らにしてみれば人間の方が害獣である訳で、全て物事はどの立場視点からものを見るかによって、百八十度変わってくるものです。
熊はもともと人間が住む前からその土地で生命を繋いできた動物であり、棲み分けの努力をすることが必要だと私は考えています。
熊以外でも、ハクビシン、アライグマ、台湾リス、キョンなど、害獣と言われて日々目の敵の様に捕獲され駆除されている動物たちは、全て営利目的の人間の勝手で輸入され、捨てられたり逃げ出したりして増えた動物たちです。
この様なことを考えながら、イメージだけで昨年描いた「ある日森の中くまさんは嘆いた」が、来月2月8日(木)から国立新美術館で始まる第33回全日本アートサロン絵画大賞展に入選いたしました。
この公募展は、視点がユニークな作品が多く、私は自分が入選した年も選外であった年も毎年楽しみにしている展示会です。
熊だけでなくあらゆる自然と人間との共存の問題として、意識するきっかけとなっていただければ幸いです。
第33回全日本アートサロン絵画大賞展
2024年2月8日(木)〜19日(月)
※13日(火)休館
10:00〜18:00(最終日15:00迄)
国立新美術館 展示室1B
東京都港区六本木7-22-2
入場料 高校生以上500円(中学生以下は無料)