津軽海峡冬景色
エアロフォンを買ってからというもの、毎日が音楽で満ちている。
非常に楽しい。
曲を吹くほど、その曲の意図や構造に想いを馳せていくのがことのほか楽しく、
いろんな曲を吹いては、どうなっているんだと考えることが多くなった。
昨日は「津軽海峡冬景色」のことをずっと考えていた。
シンプルにして重厚。
少し解釈が違うだけで別の曲になってしまう。
面白いし、いい曲だな~と改めてしみじみ思った。
せっかくあれこれ調べたり考えたので、
ブログに残しておこうと思う。
まず、この「津軽海峡冬景色」という曲は、非常に特殊だと思う。
三連符。とにかく三連符。
やたらと三連符をつかうのである。
出だしの「上野発の~」もそうだし、
サビも三連符。
しかも、畳みかけるように何重にも繰り返して使っている。
ここまで執拗に(?)三連符を使う曲はあまり記憶がない。
なんでこんなに三連符を多用するのか。
謎だったけど、作曲者の三木たかしのインタビューを見つけて、なるほど、と腑に落ちた。
https://www.toben.or.jp/message/libra/pdf/2005_09/libra0509_p12_p13.pdf
津軽海峡の荒波からきてたのか!
確かにイントロの出だしから「デデデデーン」とストリングスによる強烈な三連符。
それをテナーサックスが同じく三連符で受けて返す。
まさに、寄せては返す荒波そのもの。
その応酬が続き、不意に木管楽器がヒャララ~と落ち着いた旋律を奏で、
一度「落として」からAメロへつなげるというこの構造。
非常に鮮やかだと思った。
なお、この、三連符の応酬からゆったりと落とす、という独特のパターンは、
一貫して曲の始まりから終わりまで続いている。
ここが、この曲の最大の特徴だと思う。
これを意識できるかどうかが、この曲をカッコヨク演奏する分かれ目な気がしている。
一番顕著なのは、サビ。
「凍えそうな~」から始まる怒濤の三連符がつづいたあと、
アァ~~~~と「抜く」。
ここで抜けるか、が非常に重要だ。
フレーズ的にここにピークを持って行きたくなるが、
あくまでも「抜き」なので、ここで力強く歌ってしまうと、くどくなり過ぎてしまう。
そもそも、ひたすら三連符を繰り返すという曲の構造上、
どうしてもくどくなりがちだ。
それを感じさせないのは、「ゆったりと落とす」パートがあるから。
なので、ここはあえて抜いた吹き方をしなければならない。
そういった意味では、歌詞もなかなかすごい。
一度歌詞を書き出してみると思うが、
歌詞の大半は風景描写しかなく、
人物の心情を表す、たとえば、「悲しい」「寂しい」というフレーズはいっさい出てこない。
唯一、感情を推し量ることのできるフレーズが、
「泣いていました」「泣けとばかりに」。
いずれも、アァ~~~~で落とす直前の、ピークのところだ。
この曲でもっともメッセージ性が強い部分で、
ここに向かって曲のピークを作っていく。
そして、アァ~~~~でピークをおとして、
最後のフレーズできれいに納める。
そういう曲なんだなと思う。非常に美しい。
なお、作詞は阿久悠。
うーむ、と唸らざるを得ない。
「あなた」と別れて北に帰るストーリーは2番にならないとわからないが、
そこまででも慕情というか、登場人物のもの悲しさが心に波を打つように伝わってくる。
作曲家の三木たかしもやばい。
インタビューによると、この曲は5分で完成させた、とのことだ。
ちょっと、にわかには信じられない。
この曲をもっと知りたくて、
何人かカバー曲を聞いた。
それぞれ、いいと思ったが、やはり原曲が一番だと思う。
アンジェラ・アキはピアノアレンジだった。
アァ~~~~にピークを持って行く歌い方だったと思う。
歌い手的には気持ちがいいと思うのだが、
そこから最後まで落とすのに難しさを感じた。
やはり、「寄せては引く波」の曲なのだと思う。
細川たかしもさすがにうまかったが、
アァ~~~~の扱い方に迷いを感じた。
そこをどう歌うか、そこまでにどうピークを持って行くか、が一番キモのような気がする。
個人的に一番好きだったのは、吉幾三。
懇々と、木訥な歌い方だった。この曲にとてもあっていると思う。
吉幾三といえば、アレンジもとても良かった。
フレーズは原曲をいじることはほぼなく。
ストリングス+テナーサックスという原曲の組み合わせは、
電子楽器+トランペットに変えていた。
これは、やはり吉幾三という歌手にあわせた編成だろう。
原曲の良さを極力残しつつ、女声から男声へと変えたことで、
より力強さのあるトランペットに変えたんじゃないかな、と。
こういうアレンジの仕方もあるんだ、と勉強させてもらった。
そして、この曲は、やはりピアノソロのような単独楽器ではなく、
複数の曲で掛け合うオーケストレーションの方が雰囲気はでやすいと思った。
「寄せては引く」である。
この曲の根幹だと思う。
それにしても、よく5分でこれ作曲したなぁと、しみじみ思う。
プロの作曲家はすごい。
エアロフォンがなければ、
この曲についてここまで考え、知ることはなかっただろう。
吹いているうちにいろんな発見や気づきがある。
それが今、とても楽しい。
今までいろんな曲を聴いてきたけど、
もっといろんな視点で見て、いろんな面を知っていこうと思う。