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「地方創生」と「都市再生」という二匹のウサギ
はじめに
石破新政権が重要施策のひとつに掲げる「地方創生2.0」。その司令塔となる「新しい地方経済・生活環境創生本部」の第一回会合が11月8日に開催された。席上石破総理は以下のように述べた。
これまでの10年間の成果と反省をいかさなくてはなりません。私も初代地方創生担当大臣ではありますが、この反省というのは何だったのかということをよく検証しなければなりません。全てがうまくいったとは全く思っておりませんので、何がうまくいかなかったのかという反省をきちんといたしませんとこれから先の展望はないと思っております。
しかし、当日の議事要旨を読む限りでは、初回の会合ということもあり、「10年間の反省」についての具体的な言及はなかったようだ。
では、そもそも2014年から始まった「地方創生(地方創生1.0)」はなぜうまくいかなかったのだろうか。それを考えるためには、さらに小泉政権下の2001年にまで歴史を遡る必要がある。
都市再生と地方創生
2001年に成立した小泉政権は同年5月に総理を本部長とする「都市再生本部」を設置し、翌2002年には「都市再生特別措置法」を施行して、都市の国際競争力向上への取り組みを強化することとした。都市の国際競争力強化の取り組みは後継の安倍政権に継承され、同政権は2013年に「国家戦略特別区域法」を施行した。国家戦略特別区域とは、規制改革を総合的かつ集中的に推進し、産業の国際競争力の強化、国際的な経済活動の拠点の形成の促進を図る制度である。
こうした一連の都市再生施策の背景にあったのが、1980年代に始まった経済のサービス化・ソフト化に伴う、サービス業や金融業、ソフトウェア開発やデザインといった知識集約型の産業−いわゆる「都市型産業」の台頭であった。これらの産業が集積する大都市が国全体の経済成長を牽引するようになるが、経済のグローバル化に伴って今度は各国の大都市が互いに競争するようになる。そうしたグローバルな都市間競争に打ち勝つためには、大都市(とりわけ東京)の国際競争力を高めることが急務であるという認識がこの時期に高まったのである。
これらの都市再生関連の諸施策による容積率の緩和や規制緩和など種々の支援策を得て、東京のそこかしこに巨大な再開発プロジェクトが竣工し、また現在も建設が進んでいるのは周知のとおりである。
しかしその一方で、こうした「都市偏重」に伴って都市と地域の経済格差が拡大したため、地方への目配りという意味合いもあって、都市再生本部設置の2年後の2003年には「地域再生本部」を内閣に設置、2005年には「地域再生法」を施行して、都市再生と地域再生を並行して進めていくこととしたのである。こちらの流れの中で、さらに安倍政権下において2015年4月の統一地方選挙対策の目玉として打ち出されたのが、2014年の「地方創生1.0」である。
二兎を追うもの一途を得ず
ここまでの経緯からあきらかなように、2001年以降、政府は「都市再生(=東京の国際競争力強化)」と「地方創生(=東京一極集中の是正)」の二兎を追う政策、アクセルとブレーキを同時に踏むような矛盾した政策を、この20年間ずっと続けてきたということが言えるだろう。
もちろん、この「都市も地方も」という二兎を追う作戦は、「国土の均衡ある発展」というお題目のもとに戦後一貫して取り続けられてきた。結果として東京一極集中の是正には至らなかったものの、それでも人口増加という全体の「パイ」が拡大している時代には、都市から地方への富の再分配という意味では一定の役割は果たしていたのかもしれない。
しかし、総人口が減少に転じ、ゼロ・サム・ゲームどころかマイナス・サム・ゲームとなった今日においては、都市と地方が人口や税収という「稀少な」資源を奪い合う構図となってしまうので、その中で「二兎を追うこと」はトレードオフの関係にあり、そもそもが無理筋の話であることは明白だ。
以上の経緯から、政策のプライオリティとしてはあくまでも「都市再生」が【主】で「地方創生」は【従】、つまりぶっちゃけて言えば、政府は「東京一極集中の是正」に本気で取り組むつもりはないのではないかと私は疑っている。地方創生とはいっても、それはあくまでも「東京をはじめとする大都市圏の国際競争力を削がない範囲において」という注釈付きの話なのではないかと。
言い方を変えれば、「都市再生」が成長戦略であるのに対し、「地方創生」は分配政策だということだ。都市に人・モノ・カネを集中させて経済成長を図り、その果実を都市に人口を吸い上げられた地方に還元する。
そう考えれば、「地方創生1.0」の中身が結果として交付金のバラマキとなったことも、ある意味で当然の成り行きであろう。そして、新政権は「地方創生2.0」において、その交付金(バラマキ)の額をさらに倍増させるというのだから困ったものだ。
つまるところ、「地方創生1.0」がうまくいかなかった理由は「二兎を追うもの一兎を得ず」、マイケル・ポーター的に言えば「スタック・イン・ザ・ミドル」に陥ったからということだ。しかも、「都市再生」と「地方創生」という二匹のウサギのうち、「地方創生」のほうの「ウサギ」については、そもそもがデコイ(おとり)というかダミーで、実態としては真面目に「二兎」を追ってさえいなかったのだから、うまくいくわけもなく。
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