高峰秀子VS三島由紀夫 前編
女優の高峰秀子が、谷崎潤一郎や成瀬巳喜男、森繁久彌など錚々たるメンツと対談した「高峰秀子と十二人の男たち」(2017、河出書房新社)という対談集がある。表紙は三島由紀夫とのツーショット。1953年5月に「週刊サンケイ」で映画や恋愛について語り合った時の写真と思われる。この時、デコちゃん29歳、三島28歳。それぞれ『二十四の瞳』と『潮騒』という代表作を発表した年だった。本にはこの対談も収録されているのだが、会話のトーンが異様としか言いようがない。
三島 相手がどこに惚れたのか、僕に惚れたのか僕にくっついている付帯的なものに惚れたのか判断に苦しむときがあるね。君なんかどう?
高峰 わたしは疑い深いんだよ。(中略)その人のものをみんなはがしてみて、それでもその人が好きかどうかを考えてみる。そんなことをしているから間に合やしない(笑)
三島 案外だまさやすいんじゃないかな。
高峰 だまされてみてぇな。わたしゃしつこいからね(笑)
めちゃくちゃフランク! デコちゃんは三島が何か言うたびに、べらんめえ調でカウンター・アタックしている。他の人にはこんなラフな返しはしていない。三島の方がひとつ年下だからだろうか? いや、7つ年下でも水野晴郎には礼節をもって接しているので、齢は関係ない。こうしたデコちゃんの態度には三島も困惑したようで、「最後にお互いの人物論みたいなものを」と司会に訊かれて
三島 彼女は俺嫌いらしいよ。
と漏らすほど。対してデコちゃんはこんな啖呵を切ってみせる。
高峰 私は失礼ながら三島先生のよさは未完成のよさだと思ってるの。それなのにあなたは自分で今日私に会ったとたん開口一番「オレは生意気は卒業した」っていったけど、それが三島さんの身上だと思う。私なんか生意気の落第生だよ。あはは。
子役あがりのデコちゃんは、実社会をあまり知らないくせに、観念的に世界を語ろうとする三島の姿勢に苛立ちを覚えていたのかもしれない。でもそれが何だか可愛くみえたので、無性に弄りたくなったのかも。それにしても三島が人生の最後まで抱えた問題点を突いた人物評がエグい。ちなみに二人のトークバトルはこの年、別媒体でも繰り広げられているのだけど、それについてはまたいずれ。