長谷川町蔵

色々やってる文筆家。著書に「インナー・シティ・ブルース」「サ・ン・ト・ランド」「あたし…

長谷川町蔵

色々やってる文筆家。著書に「インナー・シティ・ブルース」「サ・ン・ト・ランド」「あたしたちの未来はきっと」「文化系のためのヒップホップ入門1〜3」(w/大和田俊之)「ヤング・アダルトU.S.A.」(w/山崎まどか)など。

最近の記事

蝦名芳弘を探して 第八回

   堀内誠一の離脱後、アンアン編集長だった木滑良久と蝦名芳弘の間に何が起こったのか? 堀内とほぼ同時にアンアンを辞めた椎根和が2008年に発表した「popeye物語」には、そのことについて触れられている。 「木滑はアンアン編集長だったが、人事異動でやってきたE副編集長との間で編集方針をめぐって大喧嘩がはじまり、編集部が木滑グループとE副編グループの二つに分かれて争いはじめ、社内の大問題となった。社は調停役として相川広告局長を編集部に常駐させた。しかし運悪く、相川はストレスと

    • 蝦名芳弘を探して 第七回

      赤木洋一が「パンデラ」から「アンアン」に異動した理由は、彼が早稲田の仏文を出ていたからである。初期「アンアン」は日本版「エル」でもあったので、フランスとの窓口役が編集部に必要だったのだ。赤木は「アンアン1970」において創刊当時の編集部の様子を、前作「平凡パンチ1964」に続いて軽やかに描いている。  奇人である創刊編集長、芝崎文にまつわるエピソードや、立川ユリ&秋川リサと並ぶ初期の人気専属モデル、ベロニック・バスキエを日本に呼んだのはいいものの、大阪万博の影響でホテルがどこ

      • 蝦名芳弘を探して 第六回

         マガジンハウスの社内事業として塩澤幸登が「平凡パンチの時代」を書いている時、「僕も会社を辞めたら、あの頃の思い出話でも書いて、本を出したいと思っているんだよ」と話しかけたのが、当時社長だった赤木洋一である。その赤木は退社後に公約通り「平凡パンチ1964」を書いた。彼は塩澤が意図的に軽視した創刊時の「パンチ」でヒラ編集者を務めていたのである。  本書について、塩澤は「平凡パンチの時代」において「生涯を平社員として過ごした人が書いたような本。とても元社長が書いたとは思えない」と

        • 蝦名芳弘を探して 第五回

           椎根和は蝦名芳弘を相当憎んでいたであろう(おそらく平凡出版内では二番目に)人物である。編集者としての彼のキャリアは申し分がない。1967年に平凡出版に入社すると「平凡パンチ」に配属。同時期に入社した石川次郎とともに木滑良久編集長時代の「パンチ」の隆盛に寄与している。その後「anan」を経て退社。一旦「日刊ゲンダイ」に移るも、「ポパイ」創刊とともに復帰。編集長も務めた。その後も「Hanako」と「Relax」の創刊編集長を務めている。まあ、レジェンドといって言い。  しかしそ

        蝦名芳弘を探して 第八回

          蝦名芳弘を探して 第四回

             1960年代以降の清水達夫は雑誌のコンセプトとタイトル、デザインを決めるだけで、内容は部下に任せるようになった。椎根和と塩澤幸登の著書の問題点は、木滑良久と石川次郎を賞賛しようとするあまり、ふたりが関わった雑誌は史実通り「清水に全権を任されていた」ことにする一方、甘粕章ラインの雑誌は「清水本人がやっていた」ことにしがちなことである。   「平凡パンチの時代」は特にその傾向が強く、1964年創刊の雑誌についての本でありながら、記述が、木滑編集長時代(1967〜70)に極端

          蝦名芳弘を探して 第四回

          蝦名芳弘を探して 第三回

           マガジンハウス(元凡人社、平凡出版)について書かれた本を複数書いている人に、椎根和と塩澤幸登がいる。二人とも木滑ー石川ラインに属していた元社員の編集者だ。そのため客観的記述の中に唐突に自分の見解を混ぜ込んでいるため、読む際は注意が必要である。  その塩澤が書いた『「平凡」物語』は、彼の一連の書物の中で最も時代が遡っているもの。基本的には「マガジンハウスを創った男」と「二人で一人の物語」の二冊についての長い注釈本と言っていい。岩堀喜之助が1945年の夏になぜ「平凡」の立ち上げ

          蝦名芳弘を探して 第三回

          蝦名芳弘を探して 第二回

           岩堀喜之助は「平凡」を創刊した際、大政翼賛会で知り合った元電通マンの清水達夫に内容のすべてを任せた。朴訥なユートピア主義者の岩堀ではなく、日本橋生まれの江戸っ子で欧米好きな清水こそマガジンハウスの創業者と見なす考え方が現在では主流となっている。事実「平凡パンチ」も「アンアン」もコンセプトを考えたのは清水なのである。しかし1985年に刊行された清水の自叙伝「二人で一人の物語 マガジンハウスの雑誌づくり」を読むと、清水が岩堀なくして自分は存在しえなかったと考えていたことがわかる

          蝦名芳弘を探して 第二回

          蝦名芳弘を探して 第一回

           マガジンハウスで活躍した蝦名芳弘という編集者に興味を持っている。本人はすでに亡くなっており、社内で反主流派に属していたせいか、マガジンハウスについて書かれた書籍でも殆ど触れられておらず、あったとしても遠回しにディスられていることが多い。仕方がないので自分で少しずつマガハ関係の本を通じて情報の断片を集めている。  さて、最初に取り上げる新井恵美子「マガジンハウスを作った男 岩堀喜之助」はマガジンハウスの創業者、岩堀喜之助の評伝(著者は長女)。熱海の旅館の仲居の私生児として生ま

          蝦名芳弘を探して 第一回

          エヴリシング・クール テレビ・アワード2023

          審査員がひとりだけの海外ドラマ賞を今年も発表します。具体的な寸評は『ラジオのように 2023年テレビ大賞』でおしゃべりしていますので、興味があればぜひ。 撮影賞 Winner! 僕は乙女座 (以下、次点) コペンハーゲン・カウボーイ マーダー・イン・ザ・ワールドエンド メディア王 〜華麗なる一族〜 ラスト・オブ・アス 衣装デザイン賞 Winner! ドナ・ザコウスカ(マーベラス・ミセス・メイゼル) (以下、次点) クリスティン・ワダ(ロキ シーズン2) サラ・アーサー(ザ

          エヴリシング・クール テレビ・アワード2023

          エヴリシング・クール ムービー・アワード2023

          審査員がひとりだけの映画賞を今年も発表します。具体的な寸評は『2023年映画大賞』でおしゃべりしていますので、興味があればぜひ。 撮影賞 Winner! ホイテ・ヴァン・ホイテマ(オッペンハイマー) (以下、次点) エリオット・ロケット(Pearl パール) エリック・メッサーシュミット(ザ・キラー) グリーグ・フレイザー&オレン・ソファー(ザ・クリエイター/創造者) グレゴリー・オーク(aftersun/アフターサン) 衣装デザイン賞 Winner! ジャクリーン・ウェ

          エヴリシング・クール ムービー・アワード2023

          エヴリシング・クール テレビ・アワード2022

          審査員がひとりだけの海外ドラマ賞を今年も発表します。具体的な寸評は『ラジオのように 2022年テレビ大賞』でおしゃべりしていますので、興味があればぜひ。 撮影賞 Winner! ギルデッド・エイジ -ニューヨーク黄金時代- (以下、次点) ウェンズデー ジ・オファー セヴェランス バリー シーズン3 衣装デザイン賞 Winner! カシア・ワリッカ=メイモーン(ギルデッド・エイジ -ニューヨーク黄金時代-) (以下、次点) アレックス・ボーベアード(ホワイト・ロータス /

          エヴリシング・クール テレビ・アワード2022

          エヴリシング・クール ムービー・アワード2022 

          審査員がひとりだけの映画賞を今年も発表します。具体的な寸評は『ラジオのように 2022年映画大賞』でおしゃべりしていますので、興味があればぜひ。 撮影賞 Winner! ホイテ・ヴァン・ホイテマ(NOPE/ノープ) (以下、次点) イーライ・アレンソン(LAMB/ラム) マシュー・ルイス(ボイリング・ポイント/沸騰) マンディ・ウォーカー(エルヴィス) ロビー・ライアン(カモン カモン) 衣装デザイン賞 Winner! キャサリン・マーティン(エルヴィス) (以下、次点)

          エヴリシング・クール ムービー・アワード2022 

          エヴリシング・クール TVアワード2021

          審査員がひとりだけの(主に)海外ドラマ賞を今年も発表します。具体的な寸評はPump Up The Volume18『2021海外ドラマ大賞』でおしゃべりしていますので、興味があればぜひ。 撮影賞 Winner! 地下鉄道(ジェームズ・ラクストン) (以下、次点) サタデーモーニング・オールスターヒッツ! バビロン・ベルリン シーズン3 マスターズ・オブ・ゼロ ミセス・アメリカ 衣装デザイン賞 Winner! エマ・ポッター(ペリー・メイスン) (以下、次点) ジェニファー

          エヴリシング・クール TVアワード2021

          エヴリシング・クール ムービー・アワード2021 

          審査員がひとりだけの映画賞を今年も発表します。具体的な寸評はPump Up The Volume17『2021映画大賞』でおしゃべりしていますので、興味があればぜひ。 撮影賞 Winner! ジェアリン・ブラシュケ(ライトハウス) (以下、次点) アリ・ウェグナー(パワー・オブ・ザ・ドッグ) エドゥアルド・グラウ(PASSING 白い黒人) チョン・ジョンフン(ラストナイト・イン・ソーホー) ヤヌス・カミンスキー(ウエスト・サイド・ストーリー) 衣装デザイン賞 Winne

          エヴリシング・クール ムービー・アワード2021 

          エヴリシング・クール テレビアワード2020

          テレビ番組も充実した内容のものが増えてきたこと、ベスト10方式で評価する難しさを感じ始めたことを考慮して、エミー賞方式で各部門を選出しました。審査員がひとりだけ。あくまで「自分が観たテレビ番組」から選んでいるので、あしからず。具体的な論評はPump Up The Volume16『2020海外ドラマ大賞』でおしゃべりしていますので、興味があればぜひ。 撮影賞 Winner! グレゴリー・ミドルトン(ウォッチメン第6話) (以下、次点) スティーブン・メイズラー(クイーンズ

          エヴリシング・クール テレビアワード2020

          エヴリシング・クール ムービーアワード2020

          審査員がひとりだけの年間映画賞を発表します。時節柄、配信作を含みます。またあくまで「自分が観た新作映画」から選んでいるので、日本公開が来年の映画も含まれています。具体的な論評はPump Up The Volume15『2020映画大賞』でおしゃべりしていますので、興味があればぜひ。 撮影賞 Winner! エリック・メッサー・シュミット(Mank/マンク) (以下、次点) イェルク・ヴィトマー(名もなき生涯) クリストファー・ブローヴェルト(mid90s ミッドナインティ

          エヴリシング・クール ムービーアワード2020