物書きの音。vol.2「太陽と雲と月のワルツ」
街屋minato 3710- 物書きの音。
書いたけれどどこにも出ていなかったものを、投稿しています。
1月頃に書いていたお話。
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「太陽と雲と月のワルツ」
太陽はみんながうらやましかった。
太陽はいつも一人だった。
それくらいパワーがあったから。
でも本当は、誰かと一緒にいたかった。
雲は雨になり、雪になり、形を変えながら流れていく。
たまに雷が遊びに来ることもある。
雲を眺めていると、気持ちも落ち着いてくる。
そんな不思議な魅力がある。
月はたくさんの形があって、かわるがわるみんな出てくる。
いろんな形を見て、願い事をしてみたり、新しいスタートをしてみたり、地球のひとは思いを馳せるらしい。
月はひとつだけれど、そんなエンターテイナーなところが輝いて見える。
うらやましかった。
頼れる仲間が欲しかった。
暗い空間にも行ってみたかった。
太陽が出てくると、光が満ちて、明るくなってしまう。
変わらない明るさが、太陽のよさでもあるのだけど。
雲はみんながうらやましかった。
雨や雪や雷など、仲間はいるけど、みんなわがままなのだ。
悠々と空を漂っていたら、気まぐれに雨が降ったり、冬には雪も、ここぞとばかりに前にでる。
雷も急に怒りだすから、びっくりする。
太陽はいつもどっしり構えて、光っている。
地球のひとたちは、晴れの日を喜ぶ。
天気予報は、晴れの日が人気だ。
月は夜空に輝いてきれい。
月がきれいだと、見上げるひともたくさんいる。
癒しのパワーがあるそうだ。
そうそう、「月がきれいですね」と、それで何かメッセージを伝えたひとがいたとか、いないとか。
うらやましかった。
何にもかまわず、どしっと構えてみたかった。
キラキラしている姿に憧れる。
悠々と漂う感じが、雲のよさでもあるのだけど。
月はみんながうらやましかった。
月が出るのは暗くなってから。
天気が悪ければ隠れてしまうし、太陽がいないと輝けない。
太陽は自分で輝ける。
いつもそこにいる。
その変わらない姿にみんな安心する。
月は見上げる。太陽は降り注ぐイメージ。
キラキラ降り注ぐ光に、うらやましい気持ちが膨らむ。
雲はいつでものびのびしている。
太陽が出ている時間も、月が出ている時間も、雲だったり、雨だったり、雷だったり、雪だったり、何かの形で空を泳ぐ。
その伸びやかさに、自由さに、ちょっと夢見てしまうのだ。
うらやましかった。
明るい光の時間を過ごしてみたかった。
のびのび自由にしてみたかった。
夜空に優しくきらめく感じが、月のよさでもあるのだけど。
「みんな、ないものねだりだなぁ」
どこからか声が聞こえた。
風だ。風の声だ。
風は気ままに吹いている。
晴れの日も曇りの日も雨の日も。
雪だって雷だって夜だって。
ちょっぴり世話好きな風は、それぞれのうらやましい気持ちを、みんなに届けた。
太陽のどっしりしている姿。
いつも変わらずっとある、安心感。
自分で輝けるところ。
晴れの日を喜ぶひとがたくさんいること。
雲の悠々と空を泳ぐ姿。
雨や雪、いろんなものに変化できるところ。
雷とも友達になれるところ。
眺めるだけで、気持ちを落ち着かせてくれる不思議。
月の優しくきらめくところ。
日によって形が変わって、エンターテイナーのようだ、ということ。
たくさんの人の思いを受け止める、温かさ。
ふと見上げてしまう魅力があること。
それと一緒に、風は伝えた。
ほかのよさをたくさん感じられる、すてきなこころが、みんなにはある、と。
同じように、自分のよさのお気に入りを見つけてごらん、とも。
風からのメッセージを聞いて、太陽も雲も月も、とてもうれしい気持ちになった。
そして、それぞれに、自分の好きなところを考えてみた。
お気に入り、というには、少し恥ずかしい。
でも、ちょっといいかも、と思えるところが見つかった。
自分のことなのに、宝物みたいだ。
小さいけれど、でも、たしかに光る。温かな光。
風はこの光を少しだけすくって、夜空にちりばめた。
小さな星たちのなかに光る、自分のよさのお気に入り。
太陽には星が見えなかった。
でももう寂しくなかった。
自分のよさをたくさん見つけた。
自分の光をたくさん感じる。
晴れの日を喜ぶひとがいることも知った。
近くにいなくても、仲間になれる。
風は気ままに吹いている。
みんなの光を眺めながら。
あ、どこかでまた聞こえてくるかも。
「みんな、ないものねだりだなぁ。
自分のよさのお気に入り、見つけてごらん。」