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「お荷物」

荷物はひとりで持つなよ
メガネをかけた白髪頭の男が言った
見ると、両手に紙袋を下げ、その間にはさむように段ボール箱を3つも重ねて持っていた

その男の後ろを歩いていた僕に
振り向きながら、そう言うのだ
確かにこちらは手ぶらである
少しはお手伝いしようか―

僕ともうひとりの連れの男も手を貸し
それぞれが1つずつ段ボール箱を抱えて男の後ろについていった
それなりに重い箱

よくもまあ、こんなに抱えて歩いていたものだ

どこまで行くんですか―

尋ねた
男は ぶっきらぼうに
七尾

答えた

えっ?! どうやって――まず金沢駅にまで行かないといけない…車もない

バス、だな
男は平然と言う
それは無理でしょ――
金がないのだろうか
タクシーで駅まで行ったらどうですか
男に問いかけた
うん、呼んでくれ

僕はスマホから知っているタクシー会社に連絡した
ほどなく車が来て、トランクに荷物を積んでいると
男は
駅までついて来てくれ
と言う
それくらまではいいとして、その先――七尾までの時間はない
そこまでの義理もない

はぁ…
あいまいな態度で、僕と連れも一緒に車に乗って駅に向かった

なぜ、この男と関わらねばならないのだ
確かに、名前も顔も知っているが、荷物運びを最後まで手伝う義理はない
どう断るか…

連れが言った
僕たち駅で下りたら用事ありますんで…
男は言った
一度持った荷物は最後まで届けるもんだ。七尾までついてこい

他人の荷物に手など出すものではない

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