■書き手はイヤな奴だが本は面白い
「文学」と「作家」への道(11) 「詩人の独り言」改
◇猪瀬直樹「太陽の男 石原慎太郎伝」(中央公論新社、2023年1月刊)
政治家としては三流 ライターとしては評価したい
元東京都知事で、今はいつの間にか日本維新の会から出馬し、参院議員をやっている猪瀬直樹の最新刊。
この人には会ったことはないが、一度だけ本人が編集部にかけてきた電話をたまたま取り、「作家の猪瀬直樹だけど、おたくの新聞に載ったコレコレの記事はないか」と乱暴に聞いてきたことがある。
都知事になるずっと前のことだ。売れっ子ライターで大宅壮一ノンフィクション賞を受けた「ミカドの肖像」は、読んでいたし、先輩社員が猪瀬の友人であることも知っていたので、無下にはできず、電話を待ってもらい、「その記事」を探したことがある。
時間がかかる、ということでいったんは電話を切ってかけ直したかもしれないが、結局彼が言うような記事は見つからなかった。
「ああ、そう。やっぱり思い立ったときにすぐ取っとかないといけないな…」みたいなことを言われて電話を切った覚えがある。
まあ、いい感じはしない経験であった。
それはともかく、まだ売れる前にスタジオボイス誌に書いていたインタビュー(「日本凡人伝」として単行本化)も面白く読んだ。
その後、石原慎太郎の引きで都副知事、知事と上り詰めたのはいいが、スッテンコロリンとなったのはご存じのとおり。
そんな男の書いた評伝だ。
内容
猪瀬はいう。
「石原慎太郎は、まあ一般的には右翼とかタカ派のイメージでとらえられている。だから天皇制とは親和性が高いと思うのがふつうだろう。(略)『(雑誌から持ち掛けられた猪瀬との)天皇制の対談の件、どうしますか、石原さん』『俺、天皇キライ』これでこの話はあっさりと終わった」
などと、石原の意外な一面を描いている。
石原については、都知事になった際、「臣石原慎太郎」と言ったと報じられた記憶があるだけに、意外な話であった。
まあ、ハラの中はよく分からないけれど、天皇なんてケッ、と本当は思う人だったんじゃなかろうか。
猪瀬も、権力欲が強く、佐高信が 『自分を売る男、猪瀬直樹―小泉純一郞に取り入り、石原慎太郎にも……』という本を出しているとおりだと思う。
しかし、本書は石原が、三島由紀夫級の優れた作家、文学者であるような持ち上げ方で、その著作を読んでみたい、と思ってしまった。
その点では、猪瀬は優れた書き手なんだと思う。
文章も読みやすく、いたずらに言葉を飾らないのも著作には好感を持つ。
作家は政治家なんぞには、やはりならないほうがいいと思う。