「詩人の顔」
「五十五歳で爪を噛んでいるぼくは一体何なんだ」
そう書き記した詩人 どんな顔した人なんだろ
と
詩集の見返しを見る
そこには柔和な笑顔をたたえた男がいて
中桐雅夫
日常をどう見つめるか
見つめたときの気持ちを
どう表現するか
詩人はみな チエを絞る 絞るはずである
詩として書き残す言葉は
見たまま 聞いたままでもあるが
そこに自分の心のフィルターをかけ
読み手とのつながりにも心を砕き
書きっぱなしではない
言葉と音調がひとつのつながりとなり
詩は 詩となり
詩は そこに存在する
自分には 吐き出したいものがあり
吐き出す際に最低限の術は備えている
さて そのフィルターはどうだろう
フィルターの具合はどうだ?
それは都合のよいものだけを通し
厄介なものどもは
通さない
あるいはそのまま よいも悪いも一緒くたに
吐き出していたのでも 心を打つ詩になり得るか
まだまだ 詩人の顔にはなれない
※写真は詩集「会社の人事」(晶文社刊)から