「マコサンへ」
ひとりの女が乗ってきた 電車に乗ってきた
人と人の間を 身を横にして割り込ませ わりこませて すり抜けるように
ぼくの隣の 空いた席に腰を下ろした
ああ 電車の中に人が戻ってきた
ああ また人込みの東京が戻ってきた
「込んでんなぁー」
やや 大きな声で ひとりごちた
その声にぼく自身が驚き 隣の女に聞こえたか
と
女の顔を見た
マコサマだった
ああ もうすぐ マコサンになるんだね
と
これまた ひとりごちたくなった――
彼女の耳には黒色のワイヤレスのイヤホン
きっとぼくの声など
いや
誰の声も マコサマの耳には届かないだろう
通勤電車に人が戻り
東京は通常を取り戻す――
ぼくのひとりごとなど
誰の耳にも届かない
マコサンよ
マコサンよ
好きなように生きとくれ