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■カッコ悪い「現代詩」はコレだ!

「詩の本」を読んで(33)

ものすごく久しぶりに、詩集のレビューを書く。
昨年9月以来だが、その間に詩集を読んでいなかったわけではない。感想を残しておきたい、と思う詩集、詩、詩人に出合わなかったのだ。いや、あったかもしれないが、自分の詩も納得がいくものが書けず、ましてや他人の詩について書く気になれなかった。

最近読んだ2冊について、埋め草的に書き残す。

◇「感情の配線-森雪之丞自選詩集-」
(開発社 2024年1月刊)

作詞家・森雪之丞は40歳を過ぎてから5冊の詩集を出しており、本書はそれをご本人が選び直し、再編集したものである。

カルチャーセンターの「現代詩」実作講座で提出されたら、何人かは「森さんのが良かった…です」と言うかもしれない。
そんな感じの、行儀のよい「現代詩」が並んでいる。
本書はどこかのスポーツ紙の芸能記事で紹介されていたのを見て、図書館に予約し、順番が回って来たのを30分ほどで読了。

森の名前は知っているし、大量の「作詞」をしている作詞家だが、大ヒット、高評価を得た歌がある人ではない。
キン肉マンのテーマとか、シブがき隊の歌とか、ヒット作は多数あるにはあるのだが、記憶に残る、聞く人の心に深く刺さったり、歌い継がれるような歌を書いた人、という印象は少なくとも僕にはない。
そんな人が、現代詩の世界で「いっちょ承認欲求を満たしてやろうかい」と何冊か詩集を出してきて、その集大成になった…本という感じなのだ。

日本のポップミュージックの世界ではかなり成功した先生なんだろうし、現代詩の体裁を持った詩ではあるが、何も伝わってこない詩集だ。
これが、20歳の早稲田大学文化構想学部の学生が書いていたりしたら、新鋭学生詩人とでも言われるだろうが、森は既に70歳を超えており、40~50歳でこんな現代詩を書いて恥ずかしくなかったのか、と思う。
「作詞家」としては名も知れた人だったわけで…。CD、レコードでは何万、何十万も売れた歌を何曲も書いているはず。現代詩なんか手を出さなければよかったのにねえ…。

◇「月の雫」中村稔
(青土社 2024年1月刊)


【抄録】  
月の光はすべての家々に、等しく降り注ぎ、雫を撒いている。住人が雫と気づかなくても、月の光は意に介さない。(「月の雫2」より) 戦後詩を代表する97歳の詩人・中村稔が、生きることの愉悦を詩で綴る。

図書館データベース


月の雫

こちらは、東大法学部出で本業が弁護士という、御年97歳。詩評論で何冊もの本を書いているが、彼の詩集を意識して読んだのはひょっとしたら初めてかもしれない。

まったく肩の力が抜けたような、それでいて、年齢なりに枯れていて、愛すべき詩が並んでいる。
彼が、過去にどんな詩を書きつづっていたのかは知らないが、この詩集に関してはなかなか味があった。

森雪之丞も、もっと自分をカッコ悪い存在として、芸能界、歌謡界の裏面を書くくらいのものを出さないと、到底世間から承認なんてされないだろう。
その点、中村のこの詩集は、脂も抜けて素直な気持ちが伝わってきて、良い――。


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